野良、始めました

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 それから何日、彷徨っただろう。大きい鉄の固まりに襲われそうになったり、自分を捕まえようとする人間をかわしたりしながら、必死に安全な場所を探した。外に出たことなんて無かったから、ごはんをどうやって手に入れたら良いのかも分からない。おまけに、外には外で、「宿なし」同士の縄張りがあるらしく、どこへ行っても別の猫の臭いが染みついていて落ち着けなかった。  そのうちに、歩く気力も体力も尽きて、どことも知れない草むらに倒れこんだ。  きっと、このまま死んでしまうんだ。そう思ったが、特に何の感慨も浮かんでこなかった。一瞬、慣れたふかふかのベッドや、毎日決まった時間に出された食事なんかが頭を過ったけれど、不思議と未練は感じなかった。それどころか、清々しさすら感じた。 ――あいつ、今ごろどうしてるかな――  俺と違って愛想が良くて、見た目も綺麗で、きっと可愛がられているのだろう。あんなやつら、こっちからくれてやる。そもそも、いったい何の目的で俺を囲っていたのか、皆目見当も付かなかった。  薄れゆく意識の中でそんなことを考えていると、目の前に何かが置かれた。目を開ける気力も無いまま臭いを嗅いでみると、魚の刺身か何かのようだった。 「お前、これ食えるか」  見知らぬ猫だった。警戒して聞こえないふりをしていると、もう一度そいつが言った。 「警戒しなくて良い。ここは俺の縄張りだ。お前みたいな得体の知れないやつに死なれると面倒なんだよ。まだ動けるなら、これを食べろ」  それが、爺さんとの出合いだった。
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