野良、始めました

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 爺さんはその後も、こまめに食べ物を分けてくれ、俺が回復するまで世話を焼いてくれた。そして、俺を自分の縄張りから追い出そうともせず、色々なことを教えてくれた。  今思えば、自分の死期を悟っていて、俺を後釜に据えようと最初から考えていたのかもしれない。  そして、俺が宿なしとして独り立ちできる頃を見計らったように、ぽっくり逝ってしまった。そして、今わの際にこう言い残した。 ――お前がこれから先、宿なしとして生きていくのか、囲われ者に戻るかは俺の知ったことではないが。どちらに転ぶにしても、相応の覚悟は必要だぞ――  だれが二度と、囲われ者に戻るか、と内心鼻で笑って聞き流した。今日から、俺は自分の力で生きていくんだ。人間になんて捕まってたまるか。  そう思いながら、爺さんから譲り受けた縄張りの見回りに出掛けた。爺さんに付いて回っていた頃は気にならなかったが、改めて一匹で回ってみると、思いのほかに広く感じられた。爺さんの残り香を自分の臭いで一つ一つ消していくごとに、どんどん空虚な気持ちになっていく。  ふと、かつて自分が囲われていた人間の住処のことが気になり始めた。実は、位置は既に把握していたが、別の強い宿なしの縄張りになっていて、これまで近づけなかったのだ。  独り立ちの挨拶回りついでに、ちょっと覗いてみようか。そんな気持ちが頭をもたげた。俺はすぐに踵を返し、かつての古巣を目指した。
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