小学生A君の話

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 小学校で大便をするには相当な覚悟がいる。もし誰かにそれを知られた(おり)には人権を、最低でも向こう一年は剥奪(はくだつ)されると思っていい。すぐさまクラス中に知らされ、ウンコマンだの、尻に付いたタイマーが三分経つと赤く点滅して便意をもよおすだの、脱糞王にお前はなるだの、言われたい放題なのは容易に想像できる。生きとし生けるものはすべて排便を行わないといけないというのに、(はなは)だ理不尽極まりない話である。  小学3年生のA君は今まさに人権簒奪(さんだつ)の危機に瀕していた。給食を食った後腹がゴロゴロいって仕方がない。幸いまだ痛みはそれほど感じないが、腸にぽこぽこ空気が入り込んでいる様な不快感がある。体に合わない何かが食い物に混じっていたのか、はたまた若く活発な五臓六腑のなせる技なのか判然としない。彼は出来るだけ体を揺らさぬよう食器を片付け、教室の前に掲示されている掃除当番の確認をしに行く。これで室内の雑巾がけの日であろうものなら、彼は今日から不憫(ふびん)にも人間未満の存在に成り下がるだろう。身を屈め、さながらクラウンチング、否、クラウチングスタートの様な姿勢を維持しながら、あの市松模様にも似た木材で出来た床を複数回行ったり来たりするなど、到底今の彼には出来る所業ではない。天にうん、いや、そのウンではない、天に運を任せ、恐る恐る本日の当番の割り当てを見てみる。
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