6月14日

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笑顔だったのに、急にもじもじと視線をそらしだし、じっと見ていると決意したようにきっと俺を見た。 「あの、ごめん! 巻き込んだりして。オレ、ほんとに、あんなに危険だなんて思ってなくて、ちょっとした冒険に誘っただけのつもりで……」 「受けたのは俺じゃん。気にしてない」 「……あの、さっきのも、嘘じゃないんだ。ほんとに。でも正直さ、心のどっかでリスク管理っていうか、危なくなった時に黒宮先輩が助けてくれるっていう打算もあった、ってなんかあのもじゃもじゃ前にして思って、……ごめん、ほんと」 「初めはそのつもりじゃなかったんだろ、別にいいよ。危ない目にあって期待してしまうなんてそんなもんだろ」 そこはそんなに気にしてないのに。麻井くんだって死ぬところだったわけで、陥れようとしたわけじゃない。事故だ。 すごい怖かったけど、それは麻井くんじゃなく襲ってきたあいつのせい。流石にこんなことになってるから麻井くんの誘いはもう少し考えてから受けよう、とは思っているけど麻井くんに対して嫌な気持ちはやっぱりない。 必死でフォローは入れてはみたが、麻井くんはなおもしゅんとした様子で頭が重そうだ。 「な、なあ、そうだ、鏡。あれって何? ほんとに動かなくなっただろ」 「ああ、あれね。旧王家の遺産で、鏡に対象の目を映して命令するとその通りにさせられるんだ。あの、動くの遅くなっちゃってごめんね。何とかしようとはしてたんだけど、警戒されててなかなか……」 「旧王家……。あの、一族みんな殺されたっていう?」 「うん。そう。先生、王宮勤めの人だったらしいし、追放前に盗んできてたのかもねー」 麻井くんに動揺があまり見られないな。無関係だろうか。 前、麻井くんが隠し事をしているという話の時、わざわざ黒宮先輩が旧王家である絹木の名前を出していた。先輩の介入を嫌ってぐんぐんと部屋に入りたがって、しかも目当ての鏡だって旧王家に関連する。 旧王家の関係者であれば、世俗を捨て魔女の元に身を寄せるほかになかったというのはかなり自然な流れであるような気はしたが。 触るの藪蛇か。でもこれだけ情報が揃ったら放置も無理? どうせ黒宮先輩が知っているわけだし……? 「隠し事についてあてずっぽうで話したら怒る?」 「え。……あー……はは、バレた?」 「バレたってほどではないけど、旧王家の関係者かなと」 「バレてるねえ」 「バレてるかあ」 照れたように笑った。どこかホッとした様子。それはそれとして落ち着かないのか体を前後に揺らした。 当たってるのかよ。動揺なさ過ぎて怖。落ち着かない様子がやけに真実味を増させた。俺の周り怖い。 てかそれ黒宮先輩黙ってていいのだろうか。せっかくできた友達だし告発しないでいてくれるのは有り難いが、貴族としての在り方は……どうなんだろう。 「要さんってちゃんと人の話したこと覚えているタイプなんだねえ」 「一般的なぐらいは。東雲くんと仲良かっただろ、気にしてないんだな」 「東雲が絹木を裏切ったこと? 年齢で分かると思うけどオレ絹木だったことないしさ、あんまそういうの興味ないんだよねえ。これもさ、親の形見がほしかっただけだし」 「親……の。じゃあ、関係者っていうか、直系?」 「うん。一応。あ、父親は一般人だけどね」 関係なくても気持ちはそうフラットではいられない気がする。心広いな。 本当に俺の周り怖い。記憶を読まれてはいけない理由だけが堆く積もっていく。 練習はしてる。してるけど失敗ができなさ過ぎて怖い。 重圧を感じて頭の中の俺がのたうち回っているとこんこんこん、とノックの音が遠くから。 麻井くんと顔を見合わせて、玄関へ向かった。
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