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6月14日
「幽愁様と言えば……人型嫌いで有名な人だね。魔術開発に手を貸してるんだって。でもそれ以外の情報はないかな」
漸く日が落ちた。いつの間にか日が長くなっているという感慨にふける中、そういえば、と思い出して麻井くんに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。
魔女に育てられたのだからきっと詳しかろうと思ったのだが、この認識であるということはそもそも情報が出回っていないのかもしれない。
「真祖は……確か、穏和で魔術師に甘いって話だったと思うんだけど」
「個体差ぐらいあるさ。人と会いたがらないからそういわれてるよ。逆に、不落様とか師匠とか、あとはー……悠遠様あたりは人好きだって聞く」
「お師匠さん、優しかったもんね」
「でしょ!」
麻井くんが身を乗り出して、にこっと笑った。
でも他の不落とか悠遠とか誰だ。知らない単語。
「そういえば要さんも真祖なんだってね」
「知ってんだ」
「あれ? そこまで知らない? 杠先輩と、誰だっけ。あの、銀髪の。黒宮先輩と仲良し風だった」
「春原先輩?」
「多分? 名前知らないんだよねえ。っていう彼がその場にいたよ。杠先輩は必死で知らないふりしてくれてたけどね。ああ、その春原先輩? も死ぬほど気まずそうだったかも」
「気まずいなら多分あってんな。しかし俺あんまり実感湧かないんだよなー……。んなこと急に言われても、知らねえし」
「へーわかんないもんなんだ。魔術師と違うなーってとこどこもないの?」
「あるかもしれないけど、常識って疑うことないだろ」
「それもそっか。要さん物知らないもんね」
しれっとすげー辛辣なこと言われた。
麻井くんがすたすたと一度部屋に行って戻ってくる。手に持っていたのは手紙だった。
中の紙をよこすので驚いて麻井くんを見ると、読んでいいらしく頷いた。
どうやらお師匠さんに真祖について聞いてくれたらしかった。
覚醒についてが主な記述。大規模な災害になるから、そこは権力を頼るべきであること。なんだかよく分からないが、覚醒は羽化のような、古い皮を捨て去るようなもので、終わった後はかなりひ弱だから体がちゃんとするまで動くべきではないこと。その期間には個人差があるが、おおよそ二週間から三か月は見るべきであるということ。
そして真祖の足の置き場として世俗を選ぶべきではないとの忠告、どうにもならなければうちへ来い、という言葉で結ばれている。
最長期間引いたら登校日数で進級危ぶまれない? こわ。
「優しいな」
「でしょ」
「麻井くんも」
「……。んふふ」
照れたようにへなっと笑った。すごく気の抜ける、優しい笑顔だ。
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