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私が避けたことを不服そうに
「何?」と、声を低くする。
「……谷垣さんと、静岡で会ったって!」
「うん。それは偶然だし仕方なくない?」
「谷垣さんが『あんなところで偶然出会うなんて……“運命”って感じする』って言ってた」
「向こうの言葉まで、俺にはどうしようもないよ」
呆れた様に眉を提げた後藤さんにカッと恥ずかしくなる。違う、そうじゃなくて……
「会社の近くで出会った私より、静岡で会った谷垣さんの方が“運命”ぽいって思ったの!
後藤さんだってそう思うでしょ? そう……思ったんでしょ……」
最後の方は声が小さくなってしまった。
「『俺は、そうは思わない』」
「……え?」
「『俺は、そうは思わない』って言ったよ。その出会いを“運命”だと思う気持ちが大事だと……思うんだよね」
まだ、立ちっぱなしだった私はテーブルから一歩離れていたけれど、素早くこっちに回り込んだ後藤さんは今度は簡単に私の腕に触れて引き寄せた。
「ねえ、“運命”なんて信じてなかったんじゃないの?」
ぎゅうぎゅうに抱き締められて耳元でそう言われ、逃げようと押し返す。
「信じてない! 信じてない!」
「ねぇ、嫉妬ってことでいいよね?」
「違う、違うってば! 嫌なの、後藤さんといたら自分がどんどん嫌いになって、自分らしくいられないの」
「……嫉妬で、だよね?」
「だから、もう!」
言い返そうとしたのに、優しく笑う目に
「ふ……もう、やだ……」
嫌なの、だって……ここで泣くのはフェアじゃないでしょう。ずるいでしょう。わかってるのに勝手に出てくる。
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