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第22話
「好き」
「うん」
後藤さんほど、素直に言えないけれど、初めて伝えた気持ちは自分でも驚くほど真っ直ぐなものだった。
「最悪に気分が悪そうな文乃も、 文乃が俺と一緒にいて『自分らしくない』って思ったことだって、ムキになるとこだって、感情的になるとこだって、嫉妬してるのも、全部そのまんま、好きだよ」
「ちょっと! よくそんなセリフが言えるわね、ど、どんな顔して言って……」
ひょいっと自分の顔を目の前に据えて
「こんな顔。まあまあイケメン」
「自分で言う!? バカでしょ、もう!」
以前と同じやりとり。にこにこ笑った後藤さんが
「バカだなぁ、文乃も」そう言うから、またぽろぽろと涙が出てしまった。
──どのくらいそうしてただろうか。少し落ち着いた頃に羞恥心はやってくる。
「あの、そろそろ……離してもらえませんか」
「嫌だね」
「……逃げないから」
「本当? 一人でネカフェ行ったりしない?」
「ぶっ」
しっ、知ってたの!?
「……リビングのゴミ箱にレシート捨てるのやめろよ。夕食のレシートもテーブルNo.の人数が“一人”になってた」
……私は絶対に証拠残しすぎて浮気バレるタイプだな。もちろん、しないけど……。
「そこまで一人になるのが好きなのかなって、ちょっといじけた」
「ふっ、だから最近は引き戸開けたりしなかったの?」
私から開けることはなかったけど、後藤さんからも開けることもなかった。
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