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だけど、いつの間か、二人になると後藤さんの事を“優太”って自然に呼んでいた。
自然に未来を一緒に過ごす覚悟が決まったのかもしれない。
「文乃のことだから、私だけ名字を変えるのはフェアじゃない! って言うのかな?」
「……」
「ああ、ねえ、言わないの? 私ばっかり子供を産むのはフェアじゃない!って」
「……」
「俺もう色んな覚悟してるから、どんとこいだよ。全部話し合っていこう。選択肢として出し合って、二人で決めよう」
「……」
「今度の休みはマンションを見に行こう、二人の」
「バリアフリーね、ちゃんと」
「まだ早くない? 20代だけど……」
「一生住むのよ? いつまでも若くないんだから! 優太のそういう先を考えない夢見がちなとこが……」
「先……に、俺がいるんだな?」
「……」
「俺は、一度たりともこの気持ちを疑ったことはないんだ」
と、ほんの少し口角を上げた顔で微笑んだ。
出逢ったあの日の笑顔が今も鮮明によみがえる。心得た人だなって……。
なんてことはない、あの時ふと心に残っただけの出来事だった。翌朝に再会しなければ、記憶にも残らなかった。
目の前の彼の笑顔と、あの日の彼の笑顔が重なる。 つられて、私もいつの間にか笑っていた。
ああ、きっと……そういうものなのだろう。
私たちの出逢いは運命だった。
あなたが、そう、言うのなら。
────end
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