第1話

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好きなブランドの服を一通り見ると、目に入った本屋に立ち寄った。 ……そうだ、あの作家の新刊が出ていたはずだ。 中に入ると、目的のその本は平台に並んでいる。あった。そう思って一冊を手に取って、表、裏と確認する。少し捲ってすぐに閉じた。近くにカフェがあったはず。その平台へ誰かの手が伸びた。青いスーツの袖口が目に入る。 恐らく若い男性だろう。時間帯的にお昼休みはとっくに過ぎている。……休憩中の営業マンだろうか。 本を持ってレジへと向かう時、こちら向きの彼の横を通りすぎた。一瞬、彼もこちらを見た。……ような気がした。店を出る時、その人がレジに並ぶのが見えた。あの本、買うのかな。 広いセルフのカフェに入ると、 「ラテを。熱めにして下さい」 そう注文する。 窓際の席に座ると、熱いラテを火傷しないよう、啜って一口。ラテの熱い筋がお腹に落ちて、温まる。冷たい指先が熱に触れてぴりぴりする。 寒い外は、暖かい室内から見ると、とても澄んだ風景に見えるから不思議だ。頼りなく感じた日差しも窓を隔てるとぽかぽかと頼もしく降り注ぐ。ほうっと一息つくと、夕食は、どこかで買って帰ろうか……。そんな事を思う。 再びラテを口に運ぶと、書店のブックカバーが付いた本を開いた。 寒い冬の昼下がり、何より贅沢な時間だった。
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