0人が本棚に入れています
本棚に追加
「また泣き真似してるー!」
そんな陰口にも慣れっこになるくらい、
私はしょっちゅう泣いてしまうタイプだった。
映画や小説に感情移入したりすることも多かったし、
だいたい悲しいことがあったら泣くのは当たり前で、
自然なこと。
だけど、オトナになるとどうしてみんな泣かなく
なるんだろう?
そんな風に思ってた私が、悲しいはずなのになぜか
涙が出なかったことがある。
それは、大好きだった彼を交通事故で急に亡くしてしまった
時のこと。
報せを受けただけでは、どうしても信じられなくて
(というより、信じたくなかったのかもしれない)、
すぐ現場に駆け付けた。
変わり果てた彼の車と生々しい血痕が事態の重さを
物語ってた。
どしゃ降りの雨の中、傘もささず呆然と立ち尽くすだけの私。
その目は乾いていた。
かわりに、降りしきる雨が、頭のてっぺんからつま先まで、
まるで洗い流すかのように、ずぶ濡れにしていったんだ。
それ以来、私は泣き方を忘れてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!