黄金の戴冠 ⑫ 過去の残像

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(※リュンクス視点に戻る)    ロイドは、カノンの先祖らしい。よく似ている。  しかし、同じ黄金の髪と瞳ながら、カノンは静ならロイドは動、太陽と月ほどに違いがある。ロイドは、陽気な男だった。 「なんだ? 俺が出迎えたのが、そんな意外か。お前達も魔術師なら、因果の(ことわり)を理解しているだろう」    立ち話もなんだからと、屋敷の一階にある客間に入る。  ロイドは客人に茶を出そうとしたが、茶器の場所が分からないと諦めた。どうやら、自炊はしない派らしい。 「因果、か。俺とリュンクスがここに来たのは、理由があると?」    静かにカノンが聞く。  ロイドは笑みを深めた。 「無論だ。そもそも、リュンクスくんの母親、シルヴェストリスがハルツの森から脱出するのに、俺が手を貸してやったんだからな」 「!!」 「お転婆な女の子が、ここに迷いこんできた時に、俺はこれが運命の分岐点だと悟った。永遠の命はなく、季節が留まり冬が続くことのないように、時間の流れは止められない。俺は、運命を変えるお前達が来るのを、ずっと待っていた」    偶然など存在しない。  自分たちは、ロイドに招かれた。ハルツを出たシルヴェストリスが子供を産み、その子供のリュンクスが因縁のあるアウレルムの魔術師カノンと共に、ハルツを訪れる。  それは、考えてみれば当然の帰結だった。 「俺の死後に、シャムが降臨させたのは、天空神ユピテルではない。悪夢の邪神メリノエだ。シャムは、俺たちの子シンフォを生かすため、メリノエと契約を結んだ。自分の体だけではなく、子々孫々とハルツの魔術師も器として差し出す契約だ」 「邪神だと?!」 「この世界の破滅を企んだ、冥神プルートと人間の間に生まれた半神だな。お前達の世代には伝わっていないか。かつて竜種と神族が戦った際に、竜種はほとんどの神族を焼いて無力な神霊にしたが、神族と人間の間の子供が残った。メリノエは、最後の一人だ」  マウを器としている神霊の名前と、なぜリュンクスが抵抗しても操られてしまうのか、理由が分かった。  リュンクスたちは、まさにそれが知りたくて、ここに来たのだ。  驚愕しているリュンクスに代わり、カノンが口を開く。 「情報の提供に感謝する。そのことを俺たちに話すということは、この夢の世界を終わりにして欲しいという解釈で相違ないか」 「話が早いな。さすが俺の子孫」    ロイドは我が意を得たりと頷いた。 「そうだ。シャムを説得し、メリノエとの契約を破棄してくれ。夢はいつか終わるもの。長い、あまりに長い夢だったが、そろそろ現実に戻る頃合いだ」    
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