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どうやって先輩を説得しよう、とリュンクスは途方に暮れた。
ノクトの逆鱗は、自由を奪われることだ。カノンに譲るのも限度がある。いかに物分かりのいい先輩でも、カノンが家主になれば色々やりにくいと嫌がるだろう。
「とっておきを使うか……?」
海岸で賭けを持ち掛けられた、何でも一つ願いを聞いてあげるというノクトの約束を、まだ使っていない。
しかし、この切り札は最後まで取っておいた方が良い気がする。
「うーん」
最近、カノンの様子が変だ。
間違い探しのように注意深く見なければ、分からない程度のおかしさである。
リュンクスが気になっているのは、日課となっている入浴で、性的な悪戯を仕掛けられない事だった。
二日に一度は、二人そろって河原で風呂に入る。
カノンは異常がないことを確認するように、手ずからリュンクスの体を洗う。そして念入りに魔力を交換する。
もちろん、忙しい時もあり、毎回、性交に突入する訳ではない。
しかし天空城から帰ってきてから、カノンは事務的に体を洗うのみで、それ以上踏み込まなかった。
やはり、無断でノクトとパートナー登録の約束をしたことを、怒っているのだろうか。
「カノン……」
その日、リュンクスは我慢できずに、自分からキスをした。
カノンの唇を舐め、行為に誘う。
「煽るな。抑制が効かなくなる……っ」
リュンクスの挑発を受けたカノンは、黄金の瞳を細め、苦しげに眉をひそめる。
他のどんな魔術師も持っていない類まれな金色の瞳に、縦に長い瞳孔が見えた。竜の瞳だ。触れた体は異様に熱かった。
「カノン?」
カノンは熱い息をこぼしながら、リュンクスを引き剥がした。
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