黄金の戴冠 ⑫ 過去の残像

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(※ノクト視点)  ハルツの娘ソマリと、孤児院にいた少女ユウナ。  二つの魂を宿した彼女と、ノクトは向かい合う。 「ユウナ、アウレルムで会った時に、すぐ君に気付いてあげられなくて、すまない」    誠意を見せるため、ノクトはまず謝罪を口にする。 「私が出て行った後、孤児院がどうなったのか。君がどうしてソマリの中にいるのか、教えてくれないか」  孤児院は消失し、子供たちも、神父さまも、行方不明になってしまった。  ノクトは、その原因が自分にあると考えていた。  神霊の血を引く者が、一ヵ所に留まると災いを起こす。孤児院は教会に併設されていて、教会はもともと海の神を祀る神殿であった。災いを寄せずらい神殿のおかげで、ノクトがいるうちは災厄が起こらなかったが、ノクトが出て行った後に溜まっていた災いが暴発したのではないかと、考えている。 「……お兄ちゃんがいなくなった後、教会の周りに魔物が出るようになって」    ソマリは、ユウナに体を譲ったようだ。  彼女は不安そうな表情で語りだした。 「建物も古くなってるし、皆で引っ越ししようという話になったの。だけど、引っ越しの前夜、火事が起きて」    魔物が、襲ってきた。  炎と魔物に囲まれ、孤児院の子供たちは絶体絶命の窮地に陥った。 「そこに、マウ様が現れた」 「!」 「私の体を渡す契約をするなら、時間を止めて皆が死なないようにしてくれるって」 「時間を止めて……?」 「うん。マウ様には、魔物を倒す力は無いから。いつか魔物を倒せる魔術師を見つけて連れてくれば、皆を助けられる。ソマリは、私の魂を連れ出してくれた。一緒に、お兄ちゃんを探してくれるって」    ただ、不安定な魂だけの存在となったユウナは、記憶を失い、探し人のノクトのことも分からなくなっていた。  だからソマリは、ユウナに体を渡して、彼女の魂を安定させることにした。 「お兄ちゃんは、皆を助けてくれるよね……?」    すがるように見つめられ、ノクトは思考を高速回転させる。  時間を止めたという言葉を信じるなら、ユウナの肉体がある孤児院は時空ごと、この世界から切り離され、どこか別の世界として隔離されている。  そこに侵入し、魔物を倒して時空を解放すれば、ユウナたちを助けられる。  唯一の懸念は、マウの正体が分からないこと。   「……もちろん。私なら魔物を倒せて、君たちを救い出せる。だからユウナ、それにソマリ。マウではなく、私に賭けてみないか。私なら、マウよりももっと実りのある未来を約束しよう」    ノクトは堂々と言ったが、実は確信などなかった。  未来は定まっていない。ノクトの見ることができる未来は、可能性の欠片(かけら)。必ずそうなると決まった未来ばかりではない。失敗する可能性もある。  だが、上手くいくと信じて踏み出すしかない。  自分自身と、二人の後輩……リュンクスとカノンを信じる。この難題をくぐり抜け、三人で明るい未来に辿り着くことを。
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