5581人が本棚に入れています
本棚に追加
/1862ページ
一つ疑問がある。
ロイドとシャムは、マスターとサーヴァントの関係だ。であるなら、シャムの説得はロイドの仕事のはずである。
そのことを指摘すると、ロイドは肩をすくめた。
「死者に無理を言わないでくれ。この俺は、シャムの記憶とメリノエの術によって甦った、ロイドの影だ。本人じゃない。俺はシャムに指示できる立場じゃない。むしろ、この夢はシャムの願望だから、支配者はシャムだ」
「でも、俺たちを導いてくれた」
「ロイドだったら、そうするというだけだ。彼の欠片に過ぎない俺に出来るのは、ここまで。後はお前達に任せる」
リュンクスは、マスターを死なせてしまったシャムを想い、暗澹とした気持ちになる。
もし、カノンが、ノクトが死んでしまったら、自分だけが取り残されたら、リュンクスはどうするだろう。自暴自棄になって、シャムと同じことをするかもしれない。
「……ただいまー!」
「お、帰ってきた」
玄関が開く音がした。
軽い足音と共に、リュンクスたちのいる客間に、人の気配が近付いてくる。
「ロイド、お客さん?」
ひょっこり顔をのぞかせたのは、明るい赤髪にエメラルドの瞳を持った青年だ。きっと、彼がシャム。リュンクスは、自分に似ているだろうかと内心首を傾げる。どちらかと言えば、母シルヴェストリスが似ている。シルヴェストリスを男にした感じだ。
そして、シャムの背後に隠れるように、金髪の少年が緊張した表情で立っている。
「ああ、お客さんだ。お前にな」
ロイドが体をずらして、リュンクスとカノンを紹介した。
すると、シャムの表情が険しくなる。
「お前ら、外から来た魔術師か。俺の世界を壊しに来たのか」
「!!」
さすが、伝説の魔術師。
一目で、リュンクスたちの正体を見破った。
「ロイドが何と言おうと、俺はシンフォを守る。ここを守る」
まるで毛を逆立てた猫のようだった。
最初からの交渉決裂に、リュンクスはどうしたものかと困る。
「……まずは、俺たちの話を聞け」
隣で深く溜め息を吐いたカノンが、低い声で言い放った。
その言葉には魔力が込められている。
マスター属性の魔術師による、命令。
サーヴァント属性の魔術師であるシャムは、その声にひるんだ。
最初のコメントを投稿しよう!