黄金の戴冠 ⑫ 過去の残像

9/14
5581人が本棚に入れています
本棚に追加
/1862ページ
 一つ疑問がある。  ロイドとシャムは、マスターとサーヴァントの関係だ。であるなら、シャムの説得はロイドの仕事のはずである。  そのことを指摘すると、ロイドは肩をすくめた。 「死者に無理を言わないでくれ。この俺は、シャムの記憶とメリノエの術によって甦った、ロイドの影だ。本人じゃない。俺はシャムに指示できる立場じゃない。むしろ、この夢はシャムの願望だから、支配者はシャムだ」 「でも、俺たちを導いてくれた」 「ロイドだったら、そうするというだけだ。彼の欠片(かけら)に過ぎない俺に出来るのは、ここまで。後はお前達に任せる」    リュンクスは、マスターを死なせてしまったシャムを想い、暗澹(あんたん)とした気持ちになる。  もし、カノンが、ノクトが死んでしまったら、自分だけが取り残されたら、リュンクスはどうするだろう。自暴自棄になって、シャムと同じことをするかもしれない。 「……ただいまー!」 「お、帰ってきた」    玄関が開く音がした。  軽い足音と共に、リュンクスたちのいる客間に、人の気配が近付いてくる。 「ロイド、お客さん?」    ひょっこり顔をのぞかせたのは、明るい赤髪にエメラルドの瞳を持った青年だ。きっと、彼がシャム。リュンクスは、自分に似ているだろうかと内心首を傾げる。どちらかと言えば、母シルヴェストリスが似ている。シルヴェストリスを男にした感じだ。  そして、シャムの背後に隠れるように、金髪の少年が緊張した表情で立っている。 「ああ、お客さんだ。お前にな」    ロイドが体をずらして、リュンクスとカノンを紹介した。  すると、シャムの表情が険しくなる。 「お前ら、()から来た魔術師か。俺の世界を壊しに来たのか」 「!!」  さすが、伝説の魔術師。  一目で、リュンクスたちの正体を見破った。 「ロイドが何と言おうと、俺はシンフォを守る。ここを守る」    まるで毛を逆立てた猫のようだった。  最初からの交渉決裂に、リュンクスはどうしたものかと困る。 「……まずは、俺たちの話を聞け」  隣で深く溜め息を吐いたカノンが、低い声で言い放った。  その言葉には魔力が込められている。  マスター属性の魔術師による、命令。  サーヴァント属性の魔術師であるシャムは、その声にひるんだ。
/1862ページ

最初のコメントを投稿しよう!