研磨の塔

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「魔石の研究で、十二位の紫水晶の資格を取得した、五年生のリュンクス君から話がある。君たちの先輩だ。ちなみに、在学中に貴石級に上がる生徒は滅多にいない。今の内に知り合っておけば、研究の内容をこっそり教えてくれるかもしれんぞ?」    教師は隣に立っているリュンクスを、冗談めかして紹介した。   「先生、魔術師は自分の研究の内容を、他人に話さないものでしょう」 「そうだったそうだった」    軽口を叩く教師を、軽くにらむ。  新入生の緊張をほぐすジョークだと互いに分かってやっている。他愛ない雑談の応酬に、想定通り新入生の間から笑いが漏れた。  タイミングを見計らい、リュンクスは前に出る。   「先ほど紹介に(あずか)った五年生のリュンクスだ。俺が駆り出されたのは、新入生歓迎会の告知のためだ。授業が終わった後、夜に食堂で歓迎会をやる。以上」 「ちょっとちょっとリュンクス君。それじゃ本当に告知だけじゃないか。もっと先輩らしく、ためになる話をしなさい」    壇上から必要事項を述べて下がろうとすると、教師が引き留めてくる。  面倒くせー。リュンクスは溜め息を噛み殺した。   「例えば、どんな話をすればためになるんですか? 魔術を教えるのは教師の役目でしょうに」 「魔術以外の話をしてはどうだ? 例えば、魔術師の属性の話とか」    教師は意地悪い笑みを浮かべた。  リュンクスがあまり触れたがらない事を見抜いて、わざとやっているのだろう。  属性……それは塔で学んでいく上で、避けては通れない話題だった。
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