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(※リュンクス視点に戻る)
セイエルにも指摘されたが、まずはカノンを説得しなければならない。
七階の自分の研究室に戻ってきたリュンクスは、考え込む。
机の上には、屑魔石から抽出した白い粉が積んである。白い粉は魔力を多量に含むのだが、水に溶かして瓶に入れないと、一晩で魔力が蒸発してしまうのだ。
作業は後回しにしようと、粉の山を脇にどける。
「嫌われたくないけど、やりたい事がある。うーん、我ながら自分勝手だ」
最悪ノクトが拾ってくれるとはいえ、カノンと別れて生きていけるだろうか。
今まで三人で上手くやってきた弊害で、マスター一人を選んで幸せになるという選択肢が存在しない気がする。絶妙なバランスで組まれた積み木のように、一人を抜いたらガラガラと崩れ落ちそうな。
「土下座で許してくれるかな……」
「チー?」
竜の子が不思議そうに、頭を抱えてしゃがみこんだリュンクスを、テーブルの上から見下ろした。
「やばい、カノンに嫌われたら生きていけない。俺、なんで先輩の口車に乗って、うんと言っちゃったんだろ」
落ち込んでいたリュンクスは、幽霊のセドリックが「本人が来てるよ!」と手振りで合図してくれたのに見逃した。
「……やはり。俺に隠し事があるんだな、リュンクス」
リュンクスは、泣きそうな顔で振り返った。
そこには静かに扉を閉めた、カノンが立っている。
黒衣に映える金髪と同じ色の瞳。今やリュンクスより背丈も肩幅も一回り大きい。シャープになった頬の稜線や、鋭角になった体付きから、大人の色気を漂わせている。
彼は厳しい表情で、いかなる虚偽をも許さない、獅子の威厳をまとっていた。
「天空城で妙に先輩が浮かれていて、リュンクスの様子がおかしいから、気になっていたが」
ノクトは、はためから見ても鼻歌を歌いそうなほど上機嫌で、あっさり帝国に帰って行った。内情を知っているリュンクスは呆れたものだ。
「まずいことをしたのなら、後回しにせず今話せ。今、すぐに」
追い詰められたリュンクスは、カノンの言う通りだと観念した。
どうせ、そのうちばれるのだ。
「実は……」
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