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予想通りカノンは怒っていたが、怒りの矛先はリュンクスに向いていない。どちらかというと、迂闊な自分に怒っているらしかった。
リュンクスは少しほっとする。
「カノンに見捨てられたら、どうしようかと思った……」
「前にも言ったが」
カノンは、安堵の息を漏らすリュンクスの頬を親指でそっと撫で、柔らかい眼差しを送った。
「リュンクスが俺から離れない限り、ノクト先輩は別枠にすると決めている。先ほどの話も、俺とアウレルムに来る前提で立てた計画だろう」
その通りだった。
だからこそ、カノンの怒りが今まで以上に怖かったのだ。例えノクトが助けてくれたとしても、カノンと別れればアウレルムに行く話自体が無くなる。店どころでは無くなるだろう。
「資金を俺に借りたくないというのも、考えてみれば納得できる話だ。身内で金の貸し借りをすると、余計なしこりになる」
カノンは冷静だ。
ノクトが保証人になっているとはいえ、塔の制度を使った借金だ。公共の組織が間に入るので、個人に借金するよりは公正だと評価する。
許してくれるのかな、とリュンクスは淡い期待を抱いた。
「だが、先輩が保証人を口実にパートナー登録を仕掛けた事と、事前に俺に相談をしなかった事は、気に入らない……!」
「ご、ごめんカノン! 本当にごめん!」
平謝りをするリュンクスの顎をつかみ、カノンは打って変わって鋭い眼差しになった。
「許さない」
「!!」
「……とは言わないが、条件がある」
リュンクスは、妙な既視感を覚えた。
はてさて、天空城で別れる前の先輩も「条件がある」と言って、保証人の話を切り出さなかったっけ。
「アウレルムで、リュンクスは俺の家に住んでもらう。先輩も一緒に、だ」
「は?」
「俺は何としてでも、ノクト先輩をアウレルムに引っ張り寄せるつもりだ。リュンクスがあの人の家に通うと、移動に掛かる時間で俺といる時間も短くなる。裏でこそこそ睦み合うな。俺の前でやれ」
「えぇぇ?!」
「リュンクス、首に縄を付けてでも、俺の前に先輩を引っ張って来い!」
とんでもない命令をされて、リュンクスは唖然となった。
というか本当、カノンは先輩を好き過ぎだろ。
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