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研磨の塔
古びた木枠の窓の外に、春の花が咲いていた。リュンクスは花びらの数を数えて気をまぎらわす。窓の外を見つめる彼の瞳は、芽吹いたばかりの新緑の色をしていた。
春は、厳しい冬を越えて久方ぶりに花が咲く時期であり、出会いと別れが交差する特別な季節だ。
ここは魔術師の卵が集まる「研磨の塔」。
今年も国内外を問わず、各地から魔術師を目指す若者が集まってきた。
妖精や精霊の声を聞き、彼らの姿が見える魔術師は、そうではない一般の人々に混じると浮きがちだ。特に、能力を隠すことのできない思春期の頃は。
魔術師の子供は十代の中頃になると試験を受け、塔にやってくる。塔で魔力の制御と、魔術に関する専門知識や技術を学ぶのだ。
俗世から離れた深山の奥に、研磨の塔は建っている。
十二階建ての塔、塔を取り巻く大小様々な学舎、衣食住を賄う店さえ建っている広大な敷地を、灰色のローブを着た新入生たちは観光気分で眺めている。
入学式が終わり、教室に入ってもざわざわと落ち着かない様子だ。
かつては自分もそうだったと、リュンクスは懐かしく思い出していた。
「静粛に」
壇上に立った教師が木槌を鳴らした。
教師は、漆黒のローブをまとった壮年の男性だ。
新入生が着ている灰色のローブは、資格を持たない一般の魔術師がまとうもの。対して、黒いローブは教師と一部の生徒しか着ていない。
漆黒のローブは、貴石級の証だった。塔の教師ともなれば、最低でも貴石級の資格を持つ魔術師が雇われる。
リュンクスも学生ながら、黒いローブを羽織っていた。
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