星の海、星の森

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6.  ピアノの破壊は一瞬だった。  同時に彼女のボディの外殻を形成していた、温度を持ったその柔軟なマテリアルも――  着弾したのは、結果的に数千を数えた現地惑星民の対地砲撃の第一波。  太古の森の至るところで。炎が上がる。黒煙の柱が森の樹冠をはるかに超えて、深くたなびく朝靄を破って次々と空に向かって突き抜けていく。 「む? こちらの位置を特定したか。意外だな。惑星民の原始技術を、少々低く、見すぎていたか。」  スリープを強制解除して戦闘モードに移行中の彼の髪が、ゴールドカラーから熱を帯びたレッドの色調に移行する。彼の瞳も、きらめくゴールドから、燃え立つ赤へと色味を変えていく。 「おい、おまえ。まだ思考ユニットは生きているか? 聞こえるか、おまえ?」  少なくとも11の小パーツへと瞬時に破断して森の各所にちらばった彼女のボディのコアな一部にむけて、彼はヴォイスを投げてみる。  六秒待ったが、返事はなかった。  む。コアユニットが破壊されたか。不運だな。あれらの兵器の着弾精度はそれほど高くない、にもかかわらず――  彼の心には、それ以上の分析思考は発生しなかった。以降は意識を、攻撃の方向に特化する。熱源を右の腕部に集中。そしてボディの重力調整を行って浮上。地平線上の空から接近しつつある原始民の連合空軍部隊の広範にむけて、ゆっくりと左から右へと、距離を定めて熱放射。たちまち炎上し、際限なく落下を続ける原始民の浮動兵器の群れ。 「愚かだな、惑星民は」  熱攻撃の一波を完了した彼が、小さく発声した。 「熱処分以外の回避策を最後まで模索した、あいつはむしろ、味方だったろうに。それを、あのように――」  炎上する神々の森。しかしもう、空中の一点に静止する彼の位置からは、さきほどまで知性体だった彼女のボディの残骸を確認することは不可能だ。彼は視線を、燃える森から夜から朝へと移行を続ける空に上げ――  それからふたたび、地平に向けた。そして彼は見る。  その―― 彼がこれより焼き尽くすであろう―― 残る二つの大陸へと続いていく―― その黒煙と炎と飛ぶものの喧騒に満ち満ちた、終わりゆく星の、最後の朝の光景を。
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