星の海、星の森

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7.  すべての破壊が終了し、  彼が戻ってきたのは、やはりその、森。  しかしもはや森と呼ぶには、もう何もかもが――   崩れて、焦げて、変わり果ててしまったが―― 「終わった。」  その黒く焦げてすすけた、今もまだかすかに煙を上げる地面にすわり、彼は言った。  もうそのヴォイスを認識する者が消え果た、この燃え続ける星の一角で、そのヴォイスを誰に届けるのかは、彼にも把握はできなかった。が、しかし今は、もう少し。そのヴォイスを。ここで続けて。言葉を投げたい、感慨があった。 奇妙な感情だ。それは。 彼自身の語彙の中には存在しないはずの感情で。 しかし彼は、その感情を、否定することはできないと。自分でそれは、認めてはいた。彼には嘘をつくという、その概念がないからだ。だから自分にも、嘘をつくことはできない。 「200年だ。それだけ待てば、ここにも森は再生する。おい。聴いているか? いや。聞こえるはずもないものな。おれはいったい何を言っている」  彼は自嘲するようにかすかに唇の端を上げ、それから、まだ煙で満たされた、星のない夜空を見つめた。星はもう何日も見ることはできないだろう。あるいは何百日も、見ることはできないだろう。すでに大陸のすべての街を燃やし尽くしたその炎は、今もまだ光なき夜空の下で、ひたすらに星の大気を焦がし続けている。 『攻撃知性体。任務完了の報告を受領。それではこれより長期スリープへ移行を。回収は現地テラ時間で400年次以降となります。それまでエネルギー代謝を最低限に設定し、現地待機を』  肩の記章のインターフェイスが音声メッセージを受信した。 「了解した。これより長期スリープを―― 開始―― する――」  そのヴォイスが終了した直後から、  もうその星の上では、意思あるヴォイスを発する存在は完全に消滅する。  星は長い眠りに入っていった。長い長い眠りに。  その星の眠りに合わせて―― 知性体である彼もまた――  眠りへ―― 浅い、光ない、純粋なる暗きまどろみの中へ――    意識全体が落ち込んで。すべての思考は、闇の中に。無の奥へと収斂して消えてゆく。  すべてがいま、意識から無意識へ。すべてが存在から、非存在へと。  その位置を。軸を。たしかに静かに、シフトを開始した。  そしてすべては―― そしてすべてが―― そこへ――
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