No. 1101 「trigger」

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酔った勢いで同僚と。なんてよく聞く話だ。 しかし自分の身に起こってみると話は別。 「おはよ。」 「ん……ん?」 「寒くなかった?」 「え、待って、待っ…!?」 「覚えてないんだ。」 「嘘。もしかしてやっちゃった?」 「うん。」 「最後まで?」 「うん。」 嘘でしょ…と頭を抱えて枕に顔を埋める。 よりによってなんでコイツなんだ。 ほんとに記憶ない。どうしよう。 誰にでも股開く軽い女だと思われたかな。 何か変なこと口走ってないよね!? 一生懸命思い出そうとするけど全然思い出せない。 「全く記憶なし?」 「うん。ねえ、ゴム使った?」 「当たり前じゃん。」 「そう。ならいいや。」 過ぎてしまった事は仕方ない。 うんうんと一人頷き、なんとも思ってない顔をして体を起こす。 「シャワー借りる。」 「どーぞ。」 言われてみれば感じるお腹や腰あたりの違和感に本当なんだと絶望しながらバスルームの戸を開ける。 温かいシャワーを浴びながら何度も昨夜の流れを思い出そうとするけど本当に思い出せない。 昨日は私の昇進祝いで飲んで飲んで、歌って踊…いや思い出したくない。 佐倉美緒27年生きてきた中で史上最悪の失態を晒していたに違いない。 そのあと確か…気持ち悪くてトイレに籠城決めてたけど閉店時間だかなんだかで無理やり追い出されたんだよね。 あ、なんか思い出してきた。 それから……だめだ。やっぱり思い出せない。 ていうかそもそもなぜ他部署である樹の家にいるのだ。昨日は私が所属する営業二課だけの飲み会だったはず。 大きくため息をついて自分の酒臭さに再び絶望しながらシャワーを止めた。 ふわふわのバスタオルを借りてまた煙草の匂いが染み付いたブラウスとスラックスに着替える。嫌だけど仕方ない。 軽く化粧をしてリビングに戻るとコーヒーの良い香りがした。 「お風呂ありがとう…ございました。」 「んー。美緒、朝はパン派?ご飯派?」 「あ、いや、私帰るから。」 「休みなんだからゆっくりしてけばいいのに。」 「そういうわけには…」 やんわりと断ってみるけどパンしかねーわ、と呟きながらトースターにセットされる2枚の食パン。 今すぐ帰って反省会を開きたいところだけど、好きな人の家にいられるなんてもう二度とないかもしれないから、じゃあ…とお言葉に甘えることにした。 それにしても良い部屋住んでるな。私よりも一年早く昇進しただけでこんな景色の良いマンションに住めるのか。 「服…俺ので良かったら貸すけど。」 「あ…臭いよね、ごめん。」 「いや…俺だったら昨日着た服また着るの嫌だなと思って。洗濯してけば?乾燥機回したら3時間あれば乾くっしょ。」 コイツ…こんなことさらっと言えるのか。 溢れ出る余裕そうな雰囲気に複雑な気持ちになるけど、正直めちゃくちゃ着替えたかった。 「まじでごめん。借りていい?」 「クローゼットこっち。」 案内された寝室の隣にあるウォークインクローゼットの中から、ベージュのニットとスウェットを拝借する。 着てみるとやっぱりぶかぶかで樹の匂いがして、視界に入る先程まで寝ていたベッドに一人赤面していたらドアをノックされた。 「着替え終わったー?」 「う、うん。」 脱いだ服を抱えてドアを開けると、目の前に樹がいた。 「可愛い。」 「え…?」 「洗濯機こっち。」 え、ノータッチ? 混乱しながら彼を追いかけて、洗濯機の中に服を入れた。
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