No. 1101 「trigger」

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「あ、やべ、焦げてる匂いする。」 「ほんとだ。」 キッチンに戻りトースターの中から取り出された食パンは案の定綺麗に焦げてて、あちゃーと彼が眉を下げていた。 「ごめん、もう一枚焼きなおすわ。」 「大丈夫!焦げたとこ取れば食べれるし!」 天然なのか?計算なのか? 新卒の頃から一緒に仕事してきたものの、他の同期に比べたらそんなに喋ったことはない。 それでもさりげなく優しくて一緒にプロジェクトを遂行した時にはたくさん助けてもらって、そもそも顔がどタイプなので好きにならざるを得なかった。 今朝から知らない顔ばかり見せられてドキドキしっぱなしだ。 昨日から迷惑をかけてるに違いない上に朝食までご馳走になるのは申し訳なくて、なんとか彼を納得させてダイニングに向かい合うように座った。 「いただきます…」 無言の食卓に変な気まずさを感じながら黙々と食べ進める。 昨日のことすごく聞きたいけどご飯食べてる時にする話じゃないよなーと思いながら、ちらりと樹を見ると目が合ってしまった。 「ん?」 「あ…いや、今日用事無かった?」 「特には。なんで?」 「せっかくの休みなのに申し訳ないと思って…」 「まあ俺基本的に引きこもりだし。気にしないで。」 「か、彼女とかは…?」 「いたら美緒連れ込んでない。」 「はは、そうよねー。」 ちょっと待って、連れ込むとは? 私が押しかけたわけではないってこと? ていうか彼女いないって!! 情報過多で頭がパンクしそうになり視線を彷徨わせていると、先に食べ終えた彼はお皿を洗っていた。 私も食べ終えてお皿を洗おうとしたら彼にスポンジを奪われてしまった。 「いいよ、ついでだし。」 「いやこれくらい私が!」 マグとお皿一枚に謎の攻防を繰り広げていたら泡だらけの手で手を掴まれてしまった。 ドキッとして触れている部分が熱くて顔まで火照る。小学生か。 「適当に寛いでて。」 「…すんません。」 丁寧にお湯で手についた泡を流してもらい、逃げるようにリビングのソファーに腰掛けた。 もう一発ヤッたくせに何手が当たっただけで照れてんのよ馬鹿。 目を瞑ったまま背中を預けてため息をつく。 早く洗濯終わって欲しいような、終わってほしくないような… ぐるぐると考えを巡らせてふと目を開けると視界いっぱいに樹の顔が広がっていた。 「ぎゃあっ!」 「何だよ。」 「いや普通にびっくりするわ!」 「睫毛抜けてたから…」 「だ、大丈夫!」 あれ?なんか距離感バグってない? 樹って前からこんなだったっけ? 考えれば考えるほど分からなくなって、ええい、聞いてしまえ!と腹を括る。 「樹、」 「ん?」 「あの…その、昨日……」 「ああ、昨日のこと?」 涼しい顔をしたまま隣に座った彼はあくびをして長い脚を組んだ。 肘をついてこちらを見る姿は悔しいけど様になってて悔しくてまた顔が熱くなった。 「ほんとにごめん。私何にも思い出せなくて。昨日さ、私が樹呼んだ?」 「そうだね。いきなり電話かかってきて、迎えに来なきゃ殺すって言われたから一応行った。」 「わー…ごめん。」 「で、行ったらぶっ潰れてる美緒とお持ち帰りしたそうな顔した早見先輩がいたから、なんかムカついて連れて帰ってきた。」 「え…?」 ムカついた?なんで?てか早見先輩何事!? もう意味が分からなくてほんと記憶なくした自分を呪いたい。 「あの…で、ここまで連れて帰ってきてくれたの?」 「美緒の家知らないし。早見先輩にお持ち帰りされたかった?」 「断じてそれはない。」 「良かった。」 ふっと微笑む樹は脚を組み替えてテーブルの上にあった雑誌を手に取った。 待て、重要なのはここからなんですけど。 「あの…それから、もしかして……私が樹に迫ってしまいましたか。」 「いや、俺が押し倒した。」 「は?」 目線は手元に落としたまま淡々と答える彼はペラペラとページを捲る。
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