第1話……丘の上に

1/6
前へ
/575ページ
次へ

第1話……丘の上に

丘の上に(1) 「終わった───────!」 ダンボールを潰して(くく)り、ガレージの隅に置いたら本日の引っ越し完了。 夏休みも終わり、9月のシルバーウィーク。 今日。 俺たち北條家は無事、丘の上に引っ越した。 まだ更地だったここへ連れて来てもらってから、そろそろ二年の月日が流れようとしている。 幾度(いくたび)か修正を重ねつつ、俺達が住みたい家が形になるさまは、なんとも楽しかった。 母屋は住居スペース・ガレージ・オフィスが一体化したお洒落な建物。 離れはログハウス風になっていて、なんとも可愛らしい。 母屋に併設されたガレージには、悠斗(はると)くん用と俺用のミニバンがピカピカの新車で二台、引っ越しと同じく本日納車された。 運転免許を取得してすぐ、小回りのきく軽自動車に乗っていたんだけど、俺の方が子供四人を乗せて行かなくちゃいけない場合もあるし、慣れてくればミニバンも運転しやすいからと、思い切ってお揃いで新車を購入してくれた。 長男・(りゅう)はもうすぐ八歳、小学二年生。 次男・(かおる)は四歳、年中さん。 三男・(ひかる)は三歳、年少さん。 四男・(わたる)も三歳、年少さん。 やんちゃ盛りの男どもは、引っ越しと同時に裏の林に秘密基地を作り、泥んこになって帰ってきた。 もう秋とはいえ、まだ昼間の外は暑い。 俺は引っ越し作業でぐったりというのに、チビ達はなんでこんなに元気なんだろう。 「優一さん、お疲れ様でした」 「悠斗(はると)くんもおつかれ。ここ座って。お?うう……ん、んぅ、ん」 軽く話しながらキスしてくる。 子供達はもう俺達がイチャイチャしても全然気にしない。 チラッと龍が見たけど。 「お風呂入るよ」 龍が声をかけてきた。 「うん、使い方分かる?」 「大丈夫」 裏の林から帰ってくる前に、湯はりのスイッチをつけたから、もうお湯が溜まってるのだろう。 既に風呂場からキャッキャッと双子の甲高い笑い声が聞こえる。 デリバリーが到着した。 寿司屋に蕎麦屋にピザ屋。 特上寿司、引っ越しには蕎麦でしょうと、ざるそば。 子供達からはピザピザピザピザ!とエンドレスでやかましいくらいに連呼された。 滅多にデリバリーを頼まない我が家だけど、おじいちゃんち《和哉さんと悠里さんち》では、孫にせびられてデリバリーを頼むようだ。 寿司だけデリバリーにして、あとはなんか作るよと言ったんだけど、却下された。 今日は俺が作らなくていいと。 悠斗(はると)くんも相変わらず俺を甘やかす。 「じゃあさ、もう仕事終わってるんでしょ?田代くんちも呼ぼうよ」 「いいですね」
/575ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3799人が本棚に入れています
本棚に追加