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丘の上に(2)
「こんにちは─────!」
夕方とはいえまだ明るい日差しの中、玄関に元気な声が響いた。
この声は比呂くん。
説明はおいおいするとして、田代雄二くんと比呂くん夫夫は仲のいい番。
うちの会社に勤めてくれてる。
「入っといで──────!」
俺が大声で返事をすると、しばらくして二人が入って来た。
うちの子達も二人に群がる。
「ごめんね、急に呼んで」
「いえ、ご自宅もお引っ越し完了したんですね。おめでとうございます。左手大丈夫でしたか?」
「うん、大丈夫。こっちこそごめんね、仕事頼んじゃって」
「いえ、別に用事なかったし。引っ越しの手伝いが出来なくて申し訳なかったですけど」
「いや、仕事頼んだ上に引っ越しまで手伝わせるわけないじゃん。とりあえず座って、引っ越し祝い兼ねてみんなで夕飯食べよう!」
手ぶらでおいでと言ったのに、律儀にチーズの盛り合わせとワインを持って来てくれた。
ちゃんとワインのコルク抜きもね。
冷蔵庫からビールやジュース。
それから戸棚に入れた紙皿と紙コップ、プラコップと割り箸を、大きなトレイに載せてリビングへと持って来てくれた悠斗くん。
今日は洗い物が出ないように、全部使い捨て出来るように食器も箸も出さない。
とにかく俺に色々面倒が集中しないような気遣いを、これでもかとしてくれる。
「俺も手伝うよ」
キッチンの……リビングからは死角になるところで呟くと、両手で包み込むようにハグされて、はむっと唇を奪われた。
「う、むっ……、んんんぅ」
はあっ、と息を吐いたら、うっとりするような男前が、俺の唇との間に銀の糸をひいている。
なんともイヤらしい。
「ありがとうございます。もう終わりですから」
にぃ─────っこりと笑まれてしまった。
こういう時の悠斗くんは、結構頑固。
本当に何もさせてくれない。
家が出来たのが二週間前。
それからオフィスを先に引っ越した。
家具家電は全て新しく購入したから、この二週間の間に順次配達して貰った。
マンションもとりあえずすぐ売るとかでもないから、そのままにしてある。
今日はマンションから持ち出した私物を搬入して、今日から本格的に住み始める。
子供達は子供部屋を気に入ってくれるだろうか。
明日から新しい学校や幼稚園だけど、親の方が不安しかない。
本来なら夏休みの間に、引っ越し完了していたはずだった。
それが色々と修正があり、着工自体遅れたのが最たる原因で、完成が必然的に遅れてしまった。
まあ、妥協するより納得の家が建ったから、それはそれでいいのかな。
幼稚園生はともかく、小学2年の龍には学期途中に転校は申し訳なかったのだけど、龍の同級生らからは、最後の別れがゆっくり出来たからと喜ばれた。
9月に入り、毎日のようにお別れの記念の品を持ち帰って来た龍。
同性の友情の証なるものや、同級生の女子からの手紙や別れのプレゼント。
もちろん上級生女子からも、熱烈な想いを一方的に持たされて帰って来ることも。
モテモテぶりに呆れる。
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