第1話……丘の上に

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丘の上に(3) 龍・本人は至って冷静に事態を受け止めているのが、親としてはシュール過ぎてドン引きだ。 この冷静過ぎるところ、絶対悠斗(はると)くん似なんだと思う。 興味無い事はとことん興味無さげ。 上級生の女子には、引っ越し先の住所や連絡先は一切教えなかったみたい。 友達との線引きがシビア過ぎだっつうの。 最近俺が悠斗くんと仲良くしてるところを、またかという目でよく見られるけど、それでも弟の世話は当たり前のように手伝ってくれるし、何気に優しい。 引っ越し直前の出来事だけど。 土曜日の朝、悠斗(はると)くんが休日出勤したすぐのこと。 双子が走り回って暴れて割ったグラスを片付けていた俺は、後ろから来た薫に背中を押され、手に乗せていたグラスの破片を思い切り握ってしまい、左手のひらをざっくりやってしまった。 ぽたぽたするのを横目で見ながら絆創膏を探してたら、「そんなので血、止まるかよ!バカ!」と怒られて包帯でぐるぐる巻にされて月野総合病院の外科まで付き添われた。 ちゃんとID証持ったかとか、病院の診察券出せとか、どっちが親なのか、もう親子逆転現象だった。 俺への優しさもあるんだろうが(あるのか?)、薫が責任を感じないように……薫に血を見せないようテキパキ処置してくれて、ホント助かった。 薫だってわざと俺を押したんじゃないから、完全なる事故だ。 ちなみに手の傷は頭脳線に沿ったように深く切りこまれたから、俺的には頭が良くなるかもと喜んだんだけど、「今さらそんなに頭良くなるわけない」と手厳しいコメントを頂戴した。 …………龍、ホントに俺への優しさ……あるよね? そんなわけで、引っ越し作業には、力仕事は俺には回らず、食事の支度も何もかも免除になってるのは左手の怪我のせい。 もちろん龍が弟の世話をしてくれたおかげで、双子を抱く必要もなく、引っ越し作業に支障もなかったんだ。 しっかり処置してもらって、もう全然大丈夫なんだけどね。 賑やかで楽しい夜も、子供達がいるから早めのお開きとなった。 明日は新しい学校と幼稚園だし。 俺は元々飲まないから、車で送ると言ったんだけど、手のひらが案外重症に見えるくらい大袈裟に包帯が巻いてあるから、嫌がられた。 「じゃあ二人とも離れに泊まりなね。着替えも用意してあるから。勝手にあるものは使ってね」 田代くん夫夫(ふうふ)に離れの鍵を渡すと、俺達も寝る支度を始めた。 龍は自分で歯磨き。 薫と双子は悠斗(はると)くんに仕上げ磨きして貰い、俺もトイレを済ませ、歯磨きをしに遅れて洗面台へと向かった。 明日は悠斗(はると)くんとお揃いのスーツ。 ネクタイもお揃い。 小学校は私服だけど、初日だからちょっとかっちりした服装を準備した。 でも、普通に授業もあるし、体操服の他にカジュアルな着替えも持たせるつもり。 これから登下校はスクールバスの予定だけど、初日は悠斗(はると)くんに一緒に行って貰う。 俺は幼稚園組の担当。 幼稚園組は制服だ。 明日は給食の日らしく、弁当も要らない。 幼稚園も案外楽かも。 そんな感じで、丘の上に引っ越してきた初日が終わりそう。 ん? 悠斗(はると)くんが寝室に手招きしてる。
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