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三陸鉄道の車窓から震災の傷跡はほとんど見えない。高藤篤史は、景色から視線を外すと鞄から手紙を取り出した。10年前の会社の同僚、水野壮一から届いたものだ。
手紙には淡く黄色いシミがいくつもついている。篤史がこの手紙の上で溢した涙のシミだ。
再び手紙を開き文面を見る。篤史は今でさえ涙を堪えることができなかった。
篤史は思い出す。当時技能実習生だったエイドリアンという男性。
フィリピン人で、細身で小柄。落ち窪んだ瞳が印象的だった。
当時彼は、社内でいじめられていた。
社員が嫌がる仕事を押し付けられたり、それができなかった時には多くの同僚が彼を詰ったりした。
篤史は、その雰囲気に違和感を覚えながらも、不用意に首をつっこまないようにしていた。
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