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早々に諦めてリビングに行けば、いつも通り先に起きたのだろうスーツに身を包んで優雅に紅茶を嗜みながら携帯電話をいじる姉の姿があった。
食事中にお行儀が悪い、と母親が怒っているが聞く耳を持たないようで機嫌よさそうに口元を緩めている。
「おはよう、晴子お姉ちゃん」
「あら、おそよう、雨子」
嫌みったらしい姉に反撃する気はない。彼女の戯れ言に付き合う元気など朝にあるわけがないのだ。
雨子が席に着けば、母親がこんがりと焼いたトーストとオレンジジュースを目の前に並べてくれる。
おはよう母さん、と挨拶をすれば返ってきたのは小言だった。
「雨子、今日は朝ご飯作ってって言ったでしょう! なのに寝坊して」
朝から甲高く響く母親の声は苦手で、思わず顔を顰める。それは姉である晴子も同じだったらしく「おかあさん、うるさーい」とぼやいた。
しかしそんな注意も母親には届かなかったらしく、続け様に雨子を叱りつけた。
「今日はお母さん非番でゆっくりしたいから、雨子にお願いしたのに!」
「母さん、それ、多分言ってないよ。そもそも非番ってことも聞いてないし」
「言ったわよ! 雨子が聞き逃したんでしょう!」
母親が勘違いしていると雨子は確信していた。昨日の母親は夜に帰ってきて上機嫌にお酒を呷り、酔っていた。
呂律が回っていない口調で「今日はとことん飲むぞぉ!」と笑っていたのが、最後に見た母親の姿だ。それ以降会話はしていなく、今日に至る。
それを晴子も知っているのだろう、何がそんなに楽しいのか大きな笑い声を上げて反論した。
「かあさん、昨日酔い潰れてたじゃん。絶対雨子に言ってないわー」
「いいえ、記憶にあるもの!」
こうなったら意地でも引かない。押し切られるのは目に見えているので、無駄に体力を使うのは勿体ないと雨子は諦めた。
いただきますと手を合わせてパンにかじりつく。イチゴのジャムが机に置かれていたが塗るのも面倒で無心で胃袋へと納めていった。
その間にも母親のお怒りは静まらず無視を決め込む雨子へと真っ直ぐにぶつけてくる。
「大体、あんたは高校生なんだから朝も余裕あるでしょう! ちょっとは自分のことは自分でしなさい!」
「うん、ごめんね。お母さん」
「全く、あんたはいつもそう! そうやって」
「母さん、マジでうるさいって。ご近所迷惑だよー、雨子だって謝ってるんだしいいじゃん」
「晴子あんたは黙っていなさい。もう、晴子はそういうところがだめなのよ」
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