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大嫌いなのは自分か、名前か。
菊永雨子は騒々しさに呻く。夢の中に沈めていた意識を無理矢理引っ張りだすかのように、どんどんと乱暴に自室の扉が叩かれた。
重たい瞼をあげれば見慣れた天井が視界に入り込む。
薄暗い室内を確かめるように見渡していると、扉の向こうから「いつまで寝ているの! さっさと起きて学校に行く準備をしなさい!」という母の怒声が響いてきた。
壁に掛けられた時計を見れば時刻は朝の六時半。
まだ起床するには早い時間だったが、このまま二度寝すれば再度母親の叱責が飛んでくるのは間違いない。
致し方なく体を、のろのろと起こした。
朝だというのに、暗い室内。白いカーテンを引いて窓の外を眺める。
暗雲立ちこめる空、かろうじて雨ではない景色にため息がこぼれる。
昨日まで降り続けていたのが止んだのは喜ばしいことではあるが、すぐにまた同じように地面を濡らすのは想像に難くない。
クローゼットに入れてある衣替えしたばかりの薄い制服に袖を通し、梅雨寒に身を震わせながらも一階へと降りた。
洗面所に入ると、鏡の前に立つ。
中途半端に長い髪を櫛で整えようとするが、寝癖は一向に直らない。湿気のせいもあるのだろう。
じめじめしていて、だからこの季節は嫌なのだと憂鬱な気持ちが支配した。
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