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「ご、ごごごごごごめんなさいっ」
バッタのあたしは土下座と深いお辞儀の境界線くらいまで頭を下げて彼女たちに謝罪した。
あちゃあ、と脳内で額を打つ。漫画を開いて考え事をしながら歩いていたため、いつの間にか『大名行列』に混ざりこんでしまったらしい。
「ここは百合条派閥のファンクラブの定位置です。ご存知なくて?」
「ご存知なかったですわよ」
あたしの妙ちきりんな言葉遣いに、彼女たちは眉をひそめる。
仕方ないじゃない。こういうキラキラ族の女の子たちを前にすると、地味女のあたしは喉の奥に言葉がつっかえてうまく話せなくなってしまうのだから。
幸いそれ以上追求されることはなかった。女子たちが互いをつつきあいはじめたからだ。
それはさざなみのように校門前から昇降口に向けて伝播していく。波が列の一番端まで辿りつき、昇降口前の時計がちょうど七時を示した瞬間、女子たちはどこからともなく全員うちわを取り出した。
「ひととせ王子よっ!」
誰かがそう叫び、きゃーっと黄色い声があがった。
隣に立っていた、その「百合条派閥」とやらの女の子と肩がぶつかって、危うく転びそうになる。逃げようとしたら右側からも人が迫ってきた。
あたしはその間でサンドイッチのレタスみたいにしなしなのぺしゃんこにされる。誰もまわりなんか見ちゃいない。
みんな彼らに釘付けなのだ。
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