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後ろからの勢いに押されて、ひととせ王子が歩く通路に転がりこんだ女子がいた。先頭をゆったりとした歩調で歩いてきた黒髪マッシュのメガネ男子が彼女を助け起こす。
「長冬様っ。あ、ありがとうございますっ」
その女子が震える声でお礼を言うと、彼はその子のブレザーの袖についた土埃を優しく払い、柔らかい笑みを浮かべて応じた。
「いえ。お気になさらず。今日も朝早くからどうもありがとうございます」
ひととせ王子のひとり、長冬真さん。紳士的で大人っぽいインテリ男子だ。
生徒会に所属していて、次期生徒会長の最有力候補だと噂されている。
「みんなおっはよーう。あっ百合条センパイ髪型変えた? かわいいね」
女子たちに声をかけながらやってきた派手な金髪の男子が、大企業西秋グループの御曹司、西秋佑次郎さん。
彼は色気むんむんのプレイボーイでいつも女の子に囲まれている印象だ。
その斜め後ろを無言で歩いている背の高い短髪の男子が、夏木大成さん。
全国大会常連の強豪男子バレー部に所属しており、将来を期待されている。スポーツマンらしく無口で硬派なタイプなので隠れファンが多い。
「今日もだりぃなー」
少し遅れて、アッシュ系の髪色の男子が、その長い手足を投げ出すように歩いてくる。彼が通るたびに一際大きい悲鳴のような声があがってうちわがいくつも高く振り上げられた。
動物園かこんにゃろー。
彼があたしの目の前を通るときに一瞬こちらに視線をやる。しかし、苦虫を噛み潰したような顔ですぐに目をそらした。
ケッ。
あの「朝に弱くてちょっとけだるげな俺」を演出しながら歩いているのが、ひととせ王子の最後のひとり、香坂春。
ああ見えてひととせ王子で一番人気で、生徒たちの間で闇売買されている生ブロマイドのレートも一番高いという、いわゆる学園の王子様だ。
ちなみにあたしの兄でもある。
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