パニック編 ~イケメン腐男子、爆誕~ (1)

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 あたしは、あの学園の王子様が自分の兄だということは死んでも隠し通したい。 バレたら「春様の連絡先教えて」とか「お兄ちゃんって家ではどんな感じなの?」とか女子たちに迫られるに決まっているから。  そんでもって兄貴のほうは、この地味でぼっちで腐っている女が妹だなんて友達やファンの女の子に知られるのが恥ずかしいと思っているに違いない。あいつのプライドはエベレスト級に高いのだ。  そんなあたしたちは、あたしが中一の頃から、つまり三年以上も口をきいていない。学校だけでなく家でも亡き者なのだった。  あーあ、なんであたしたちって兄妹に生まれついてしまったんだろう。 同じ両親をもち、同じ家で、同じものを食べて育ってきたのにこんなにも正反対だなんて絶対変だ。  昇降口に向かう人ごみにまじりながら、あたしはページをめくる。  そのコマを見た瞬間、あたしは足を止めた。後ろにいた人がぶつかって追い抜きざまに迷惑そうな視線を向けてくるが構っちゃいられない。  ――この戦いから戻ったら二人でずっとともに暮らそうじゃないか。  七巻の最後の一コマで、ルキウスがマルクスにそう告げていた。  さらに次のページをめくるが七巻はそこで終わっている。八巻の発売日は未定だ。巻末おまけ漫画の「古代ローマの衣服 トーガの巻き方」なんかちっとも頭に入ってこない。  このセリフはどう考えても死亡フラグである。  つまり、推しカプが(作者)によって引き裂かれようとしているのだ。  あたしは頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。  そんなのいやだー!  その絶叫は、あたしの心の中だけで虚しく響きわたった。
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