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居酒屋
金曜日の夜二十一時過ぎ、給料日後の金曜というのをすっかり失念していた。
ちょうど帰り支度にかかっていたところ、久しぶりに飲みに行こう、と同僚に誘われ軽く返事をしてしまった。
飲み屋街は勤め人でごった返していて、店を見つけることが出来たのは幸運だった。
空いている店が見つからず、夜の町を少しさ迷い、今日はだめだもう帰ろうか、という雰囲気になっていたところ定員から声をかけられた。
「お兄さん達。ちょうど空いたところ。ハイボール190円赤字覚悟でやってますよー。どうぞーー。」
ハイボール190円という甘い誘惑に誘われ入ってしまったが、ビールは480円となんとも微妙な値段設定であり、少し騙された気がした。通された席がL字カウンターの奥の三席がちょうど空いたらしく、二人で使っていいとのことで、ビールの値段のことは目を瞑ることにした。
入った途端に煩い店だった。よく言えば店内は賑々しい活気に満ちていて、楽しそうな笑い声と店員の快活なかけ声が飛び交っていた。こういう店では自分もさっさと酔っ払い、楽しむのが一番だ。
奥の客の甲高い男の声がカウンターにまで届いて、たまに混じる女の笑い声がキーキーと耳障りだったが気にしないことにした。
「ハイボールにしとく?」
「いや、一杯目はビールやろ。」
と結局ビールを頼んだ。一分も経たず泡が多めのビールが届き、後藤が適当に注文し出した。
俺はお先に、と目配せしゴクゴクと金色の液体を流し込んだ。キンキンに冷えたこの苦い飲み物が旨いと感じるくらいには大人になったようだ。さっさと酔ってしまおう。
十一月でやっと寒さを感じるようにはなったが、厨房が近く暑い。ジャケットを脱いで、ネクタイを緩めた。
「先に飲んだな。」
怒った素振りはない。後藤も俺に習い、ジャケットを脱いで、ネクタイを緩めた。やっと飲めるとジョッキを持ち、負けじと一気に飲み下した。俺も気付けばもう半分以上飲み干してしまっていた。可愛らしい店員が突き出しを持ってやってきた。そのタイミングで二人して次のハイボールを注文した。
「この突き出し旨いな。」
枝豆、自家製のポテトサラダと蒟蒻が乗っていて、期待していたより良いものが来たので驚いた。
「突き出しって何?お通しのこと?」
「はー。まだ慣れへんわ。東京。」
残ったビールを体に流し込んだ。苦みが染みて、空きっ腹に注ぎ込んだこともあり、一杯目にして良い気分になっていた。すぐさま先程の女の子が追加のハイボールを笑顔で持ってきた。
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