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千華の友達
それからの日々。
彼女は、天気が良い日は、窓に向かって万華鏡を覗いていた。
「ママ、今日はお花畑みたいに見えたよ!」
少し暗い日には、顔をしかめて。
「うー、お星さまがいっぱいだったな」
独り言なのか、私に聞こえるようにと言うことなのか、ずっと握って、その小さな万華鏡を離さなかった。
そして、3か月が経ったある日。
「ママ、お胸が、苦しい……よ」
「ち、千華ちゃん! せ、先生!」
私は彼女の小さな手を握って、病院の先生を呼んだ。
「ね、ママ。千華の万華鏡、どこ?」
「ほら、ここ。ここにあるわよ!」
私は、彼女の力の入らない手の中に、小さな万華鏡を握らせた。
だが、それはポロリと白い床の上に落ちた。
「あ……。千華の、お友達が」
私は、涙で娘の顔も、床に転がる万華鏡も見えなかった。
病気がちで友達のできなかった彼女にとっては、万華鏡が友達だったのだろう。
それきり。
彼女は、眠るように息を引き取った。
海外での臓器移植が事実上できなくなり、7歳の千華に合うドナーは、結局、見付からなかった。
千華のその小さな体は、私の腕の中で、少しずつ冷たくなっていった。
「ママ、あの万華鏡、天国に一緒に持って行くからね」
少し救いだったのは、その安らかな顔が、そう言っているように見えたことだ。
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お葬式の日。
私は小さな棺に、小さな万華鏡を1つ、そっと千華に握らせた。(了)
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