お友達の心臓

1/1
前へ
/5ページ
次へ

お友達の心臓

「だってそうだろ? 赤ん坊の時から、泣いたり笑ったりさ。日に日に大きくなるから、1日1日が違って見えるだろ」  はっとした。確かに、そうだ。  千華は、辛い病気に耐えながら、私たちに思いっきりの笑顔と、くしゃくしゃの泣き顔を、たくさんたくさん見せてくれた。  でも、私たちは、あの子に何をしてやれただろうか-。  ふいに、トントン、ドアを叩く音がした。 「先生がお呼びですよ」  看護師さんが、突然、私たちを呼びに来た。嫌な予感がした。  先生は、難しい顔をしていた。 「千華ちゃんの心臓、思った以上に深刻です。移植以外に、助かる方法は……」  聞いていて気が遠くなった。この厳しい現実を、千華に伝えなければならない。病室に戻って、覚悟を決めた。 「いい? よく聞くのよ。千華ちゃんの心臓はね……」  千華は、万華鏡をぎゅっと握りしめ、首を振った。 「千華ね、お友達の心臓なんて要らない!」  プイと横を向いて、布団をかぶった。千華は、小さな心で、全部知っていたのだ。  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加