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字は下手で泳ぎも苦手な僕が、計算意外にミカちゃんから褒められたことが、もう一つ。それは、薬を上手に飲めることだった。
食物に動物の毛、花粉にハウスダスト、それから……。当時、両手の指を使って数えるほどのアレルギーを持っていた僕は、幾種類もの薬を飲んでいた。
「これ、全部飲んでるの? すごいね」
僕にとっては、ごくごく当たり前のルーティンにすぎないことだったのだけれど。丈夫であるがゆえに薬いらずなミカちゃんは「錠剤も粉薬も飲めない」らしく。何度も「すごい」と言ってくれたことが、僕はすごくすごく嬉しかった。
不思議なことに、大人になった僕は、これらのアレルギーを一切克服することができていた。当時のミカちゃんに「すごい」と言ってもらえたことが、力となって治せたのではないかと今でも思う。
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ピアノ・英語・少林寺拳法・水泳教室・学習塾。夏休みが終わると同時に都会の自宅へ帰る僕には、中学受験に向けて週五日の習い事が待ち受けている。全部母が決めたスケジュールだった。そのことを何となくミカちゃんに打ち明けると、意外な質問が返ってきた。
「ヒロちゃんは、何になりたいの?」
僕の本名は『広紀』で、夏休みも終盤に差しかかると、僕たちは「ミカちゃん」「ヒロちゃん」と呼び合うほど親密になれていた。
━━ヒロちゃんは、何になりたいの?
僕は、返事に詰まった。なぜなら、僕が将来なりたい職業は……。
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