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警官に何度も頭を下げて、お騒がせしましたと見送る。
「いえ、無事で何よりでした。お母さんに心配掛けないようにね。」
拓巳の頭をポンポンとして帰って行った。
美和子にも何度もお礼を言い、謝って見送ると、由巳は改めて部屋で拓巳を抱きしめた。
「お母さん、拓巳のお友達も知らないわ。」
「いないよ?」
「今日の子は?お母さんに教えて?」
「良く行くコンビニで仲良くなった子。塾行ってて、終わるのが10時過ぎなんだ。それで今日誘われて、12時までに帰ればいいかなって思って…ごめんなさい。遅くなった。」
「ううん、お友達は大事。でもね、この時間は子供が外にいていい時間だとお母さん思わない。拓巳は?」
「……うん。ごめんなさい。もうしない。」
「ありがとう。ほら、もう寝なさい。」
奥の和室に入る拓巳を見つめながら自分の右手を見た。
初めてあんなに強く、あの子を叩いたと思うと叩いた手が痛く感じた。
小学二年生になった頃、拓巳に父親の事を聞かれた。
後にも先にもあれ一度だけ。
一生話さないと決めていたけど、何も知らない事も先々怖い気がしたので写真を2枚渡した。
その場で裏に名前を書いて。
「この人か、こっちの二人のどれか。似てるからこの人じゃない?」
そう話して写真を渡した。
一枚は大倉事務所の移転お知らせの際の近況写真で、大倉事務所の人が写っていて、指で教えたのは大倉拓郎だった。
もう一枚は会社の忘年会を兼ねた旅行先で写したもので、課長と須賀、由巳も写っていたが、10人程が一緒に写っているから顔は小さめだった。
はっきりとは教えなかった。
誰かは分からない、そう教えた。
似てると指で当てたのは、斉藤という無関係の社員と須賀だった。
裏に、須賀健斗と斉藤篤の名前は書いた。
部屋に入ると拓巳は昔、渡された写真を見つめた。
どれが父親か分からないのだろうと思っていた。
だから自分の事はどうでも良いに違いないと思っていた。
母が泣くのを初めて見た。
怒られているのに嬉しかった。
父親はもう誰でもいいと思った。
母が一緒にいて、自分を心配してくれて必死で働いてくれている。
それが全てではないかと思えたからだった。
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