13

3/6
前へ
/107ページ
次へ
警官に何度も頭を下げて、お騒がせしましたと見送る。 「いえ、無事で何よりでした。お母さんに心配掛けないようにね。」 拓巳の頭をポンポンとして帰って行った。 美和子にも何度もお礼を言い、謝って見送ると、由巳は改めて部屋で拓巳を抱きしめた。 「お母さん、拓巳のお友達も知らないわ。」 「いないよ?」 「今日の子は?お母さんに教えて?」 「良く行くコンビニで仲良くなった子。塾行ってて、終わるのが10時過ぎなんだ。それで今日誘われて、12時までに帰ればいいかなって思って…ごめんなさい。遅くなった。」 「ううん、お友達は大事。でもね、この時間は子供が外にいていい時間だとお母さん思わない。拓巳は?」 「……うん。ごめんなさい。もうしない。」 「ありがとう。ほら、もう寝なさい。」 奥の和室に入る拓巳を見つめながら自分の右手を見た。 初めてあんなに強く、あの子を叩いたと思うと叩いた手が痛く感じた。 小学二年生になった頃、拓巳に父親の事を聞かれた。 後にも先にもあれ一度だけ。 一生話さないと決めていたけど、何も知らない事も先々怖い気がしたので写真を2枚渡した。 その場で裏に名前を書いて。 「この人か、こっちの二人のどれか。似てるからこの人じゃない?」 そう話して写真を渡した。 一枚は大倉事務所の移転お知らせの際の近況写真で、大倉事務所の人が写っていて、指で教えたのは大倉拓郎だった。 もう一枚は会社の忘年会を兼ねた旅行先で写したもので、課長と須賀、由巳も写っていたが、10人程が一緒に写っているから顔は小さめだった。 はっきりとは教えなかった。 誰かは分からない、そう教えた。 似てると指で当てたのは、斉藤という無関係の社員と須賀だった。 裏に、須賀健斗と斉藤篤の名前は書いた。 部屋に入ると拓巳は昔、渡された写真を見つめた。 どれが父親か分からないのだろうと思っていた。 だから自分の事はどうでも良いに違いないと思っていた。 母が泣くのを初めて見た。 怒られているのに嬉しかった。 父親はもう誰でもいいと思った。 母が一緒にいて、自分を心配してくれて必死で働いてくれている。 それが全てではないかと思えたからだった。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1858人が本棚に入れています
本棚に追加