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由巳が目を覚ますと白い天井が見えて、少しガックリする。
せっかく家に帰っていたのに…という気分。
ふと視線を少し横に向けると、椅子に座ったまま腕を組んで寝ている拓巳の姿が見えた。
声を出そうとしたら…多分、酸素が口元にあって、上手く声が出なかった。
ゆっくりと手を伸ばし、指先が少しだけ拓巳の肘に当たった。
ピクリと拓巳の身体が動いて、目を開けて由巳を見た。
「母さん?………痛い所は?具合悪くない?」
直ぐに顔を近付けて聞いてくれる。
頷くと看護師を呼んでくれた。
「もう大丈夫です。」
という医師の言葉が聞こえて、心電図や酸素も片付けられて病室がシンとした静寂に包まれると、少しホッとした。
「ごめん。心配…かけたね。」
無言で拓巳は首を振る。
「平気?」
「うん。お母さんさ、夢見てた。」
「夢?呑気だなぁ。2日も寝てたのに…。」
呆れた様に言われてくすりと笑ってしまう。
「良い、夢だったのよ?」
「へぇ…どんな夢?」
「昔さ、お母さんが話した、奇妙な夢の事、覚えてる?」
「あぁ。あの予知夢、みたいな奴?すぐ忘れてその時にどっかで見たなぁって考えると夢で見てたと思うって。でも気が付いたら同じ様に話して喧嘩したり、怒られたりしたから全然役に立たない予知夢だっていう、あれ?」
「ふふっ…そう、それ。」
夢に見た事が現実になる事は凄いはずなのに、全部忘れているからその時になっても結局なんの役にも立たない、見てるだけの夢だ。
楽しそうに由巳は笑い、それを見て拓巳も微笑んでいた。
「それで、何を見たの?良い夢なら退院かな?」
聞かれて由巳はううん、と答えた。
「あのね?もっと歳を取った拓巳がいたの。」
「はぁ?もっとってそれほ………。」
本当に俺だった?と拓巳は言いそうになって止めた。
もしかしたら救急車の中で勘違いした様に、須賀という人を夢で見たのかもしれないと思ったからだった。
「……歳を取ったら分かんないだろ?」
と言い直した。
「ううん、母親だよ?こんなだけどさ。分かるよ、自分の子は、幾つになっても。30位かなぁ?いい顔で笑っててさ、安心したんだよねぇ。」
「笑ってるだけかよ。」
「ははっ…あんたびっくりするよ?」
「何が?」
本当に嬉しそうな顔をした由巳にどんな良い夢だよと訊き返した。
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