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エピローグ
「お会いしたかったなぁ。拓巳さんのお母さん。」
「今、会ってるでしょ?」
藤代拓巳は帰国後、妙な出会いから入った会社でバイトから正社員になり、そこで出会った女性と結婚した。36歳になっていた。
結婚後の報告に由巳の墓に拓巳は愛子を連れて訪れた。
二人で報告をして手を合わせる。
「母さん、こちら笹嶋、あっともう藤代か。藤代愛子さん。子供達もね、今日は平日で無理だったんだけど、次の機会に来てくれるからちゃんと紹介するね。いい子達だよ。俺がお父さんとか、驚くだろ?」
「すみません……子持ちの再婚です。あ……再々婚だ。怒られないかな?」
「平気。全然、そういうの気にする人じゃないから。」
「そう?初めまして、愛子です。拓巳さんより歳上で再々婚で申し訳ないですが、後悔させない様に頑張りますのでよろしくお願いします。」
丁寧に頭を下げる愛子に拓巳は思わず吹き出した。
「あ、何よぉ?失礼がない様に挨拶してるのに。」
「ごめっ……。遠目で見たら、墓石に頭を丁寧に下げるって……ペターって着きそうな勢いだったからさ。」
「拓巳さんも!ほら、座って手を合わせる!後ろで待ってるからゆっくりどうぞ。」
言われて強制的に座らされた。
(母さん、予知夢、当たってたみたいだ。ずっと忘れてたんだけどさ、最近思い出した。歳上、地味目、ちょっときつい目、優しい人、全部当たり。母さんが見た夢と同じだといいな。それから、料理は愛子がかなり上。そこはしょうがないよな。だけどさ、お人好しで優しいとこ、ずっと一人の人を好きなとこはそっくりだよ。母さん、本当はずっと須賀健斗って人の事、本気で好きだったんだろ?大丈夫、誰にも言わない。父親の事は一生、誰にも……。)
瞑っていた目を開けて立ち上がり、後ろの愛子に笑顔を向けた。
「行こうか!」
「もういいの?」
「ああ。喜んでるよ。喫茶店寄って帰らない?」
「いいよ。コーヒーの美味しい所を見つけて下さい。」
「犬じゃないんだからさ。」
くすくす笑いながらお墓の並ぶ狭い通路を歩いていると、前から来た初老の男性とすれ違った。
拓巳も愛子も端に寄り道を譲る。
ペコリと頭を下げて男性は通過するが、通り過ぎてから足を止めて振り返り、拓巳の顔をじっと見ていた。
それが気になり、少し歩いてから振り返ると、藤代の墓の前で男性が足を止めて立っていた。
花を手向けて、静かにゆっくりと手を合わせている姿を拓巳は見た。
「拓巳さん?どうかした?」
「いや…。もう代わりはしなくていいんだなって思って。」
「代わり?」
「ううん、何でもない。行こう。お腹空いた。」
(母さん、須賀さん、来てくれているみたいだね。)
本気だったか遊びだったかは分からないが、由巳の事を少しは覚えていてくれる事が拓巳には嬉しかった。
「愛子、ずっと一緒にいようね。」
「……はい。」
手を繋いで二人は真っ直ぐに歩いて行った。
ーーー 完 ーーー 2020、9、30
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