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交際は順調だった。 会社では内緒だから好き好きオーラが出ない様に、見たら目で追ってしまうから出来るだけ見ない様にした。 須賀の提案で会社の裏の小さな通りにある喫茶店を待ち合わせ場所にして、非常階段で廊下で、給湯室で、誰もいない昼休憩の職場で、すれ違う瞬間に須賀が話しかけて来る。 「今日どう?」 「うん、18時位かな?」 「じゃあ、19時にいつものとこ。ご飯行こう。」 「はい。」 週に一度は食事して由巳の部屋に来る流れ。 渡された書類の間に伝言が挟まれていたり、それにもドキドキして幸せを感じていた。 2か月経つ頃には、喫茶店で待ち合わせも大変だと須賀が言ったので、由巳は食事の後、部屋に行くのだし、と自分の部屋の合鍵を渡した。 初めて須賀に手料理を作ったのもその頃だった。 「ごめんなさい。こんなのしか作れないの。調理実習位しかしなくて、家では本当にお手伝い程度で…皮剥きとか…。今の母からは何も教えてもらってないし、私が台所を使うのもあんまり好きじゃないみたいで、長い時間は無理だから凝った料理は作った事がないの。」 焼肉のタレで味付けした玉ねぎと豚肉炒め。 豆腐のお味噌汁とご飯、辛うじて買っていた漬物。 本当に女性としてどうなの、と思いながら小さなテーブルに並べた。 「うまい!本当に。一人暮らし始めてまだ日が浅いんだしこんなもんだって。それより誕生日12月だろ?二人で何処か行こうよ。土日使って忙しくなる前に。」 「本当?」 「うん。何処行きたい?」 食事してアパート、デートはいつもその流れで不満はなかったが須賀の言葉は嬉しいものだった。 由巳の誕生日前の週、土日を利用して須賀の運転で温泉宿に出掛けた。 旅行なんて両親が離婚してから一度もなかった。 尤もその前も一度しか覚えはなかったけど、自分の為に宿を考えて決めてくれて連れて来てくれて、一緒にずっといられて由巳は嬉しかった。 「ずっと一緒にいたいな。」 そんな言葉を並べて敷かれた布団の上で口ずさんでいた。
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