3

4/6

1784人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
お正月は家族や親戚が集まるから会えない、と帰り際に須賀が言い残して、由巳は思わずクッションを閉められた玄関ドアに投げた。 「恋人」だと思い、疑うこともせず、幸せな未来を夢見ていたのに既婚者だった。 一人のお正月は何もしたくなかったし、作る気もしない食べる気もしなかった。 家の電話が鳴っても出なかった。 (これから、どうしたらいいんだろう。) いくら考えても答えが出ない。 幸せそうなあの家庭を壊したくはない。 今母の様な、愛人から妻になっても嬉しくないと由巳は思う。 だが直ぐに須賀の笑顔を思い出す。 二人で過ごした時間、本当に幸せでその幸せを暖かさを手放せる気はしなかった。 愛人は嫌だ、罪悪感もある、須賀を酷いとも思う…でも。 何度考えても堂々巡りで答えなんか出るはずもなかった。 ーー「本気で由巳が好きだ。妻とは冷めてしまっているから、子供が出来たから一緒にいるだけだよ。俺の気持ち、由巳には分かるよな?頼むから許してくれ。愛してるよ由巳。また会いに来るから。」 そう言って須賀は帰って行ったが何を信じて何を疑えばいいのか、好きだから好きなのに…考えると頭痛がして涙が溢れて、寝ているのか起きているのか分からない時間を過ごしていた。 4日、仕事始めの日、仕事だけはしっかりしなければと、自分を奮い立たせて会社に出勤した。 もう一度会って、奥様との関係がどうなっているかも聞こうと覚悟を決めていた。 お子さんがいるのだから別れた方がいい、由巳の中で不倫は泥沼、そんな言葉を思い出していた。 (いつか…母が言っていたのだろうか?) 父親の浮気から三年間の不倫の上、離婚して子供も取られて僅かなお金で家から追い出された形に母はなっていた。 もしかしたら今度は自分がそれをする方の立場になるのかと思うと、いい気分ではないし、胸が苦しくなった。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1784人が本棚に入れています
本棚に追加