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「別れたくないって……じゃあ、じゃあ……奥様と、別れるの?」
恐々と訊き返す。
僅かな期待と奥様への罪悪感。
須賀の答えは由巳の全てを粉々にした。
「あいつと別れる事は出来ない。子供もいる。まだ一歳にもなってない。7年、いや、5年待ってくれないか?子供が父親をしっかりと認識出来る様になるまで。今は冷めた夫婦関係でもあいつなりに修復しようと努力しているんだ。離婚を言い出せば俺が不利になる。由巳の為にも円満に別れたい。親権は向こうに渡すけど時々は会いたい。それは分かってくれるよな?5年の間に努力しても無理だと分かればあいつも離婚に応じると思う。頼む!」
その場で頭を下げられて、結果的にそれは土下座になり、須賀の頭をボーッと見つめていた。
「5年…待って。」
小さな消え入りそうな声で由巳が口を開く。
その声で須賀が頭を上げた。
「何、由巳。何でも言って?」
優しい声、何も変わらない須賀の優しい声が、針みたいに刺さった。
「5年待って、離婚、しなかったら?」
「えっ?…す、する!するよ!」
必死な声だけど、その場凌ぎにも聞こえる。
だから思わず声を張り上げて言う。
「絶対、離婚出来るなんて分からないじゃない!奥様が努力しているなら修復出来るかもしれないじゃない!私の為に円満に離婚したいって何?私の為なら、私が傷付く前に話してくれたはずでしょ!どうして!私…私、一人…5年もこのまま須賀さんを待つのに、どうして…わた、私、不倫なんて、愛人なんて……絶対、嫌だったのに!!!」
途中からボロボロと泣き出して、最後は須賀の胸の中で号泣した。
「ごめん!ごめんな。だけど結婚してるって話したら由巳には相手にもされないだろう?本当に由巳が好きで、愛してるんだ。だから……誰にも由巳を取られたくなかったし、付き合って2、3年したら話すつもりだった。もう少し待ってくれ、離婚したら結婚しようって…言うつもりだった。泣かせてごめん、由巳。」
抱きしめられて涙が流れる頬にキスを何度もする。
何度も謝りながら愛しているのは君だけだと囁きながら……抱きしめられた手が少しずつ動いて、頬のキスが唇に変わる。
何度も唇を重ねて、ゆっくりと身体が床に落ちていく。
頭では駄目だと思うのに、身体は従順に須賀に従う。
泥沼に……落ちて行った。
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