1

1/5

1781人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ

1

高校卒業して就職して、大都会ではないが、都会にある本社に配属が決まり、資材部という部署に配属された。 卒業と同時に父親の姓から母親の姓である「藤代」に変更をしていた。 父親を怒らせて母親を泣かせての変更だったが、父親に引き取られた事を謎に思っていて、今の母と同じ姓を名乗り続ける事に抵抗を感じていたからだった。 何を扱っていて、どういう仕事をするのか全く分からない状態で、自分に出来るのか不安の中で、彼を紹介された。 「君の指導担当になる、須賀さんだ。しっかり仕事を覚えて一人前になって下さい。」 「須賀(すが)健斗(けんと)です。3ヶ月間、指導担当をします。よろしくお願いします。」 爽やかな笑顔で手を差し出された。 「藤代(ふじしろ)由巳(ゆみ)です。よろしくお願いします。」 握手をして頭を下げた。 須賀さんは28歳、十歳上で指導は今年が初めてで緊張してると話してくれた。 いつも二人一緒で(指導だから当たり前だけど)、小さな変化にも気付いてくれて、体調が悪い時は優しく叱ってくれた。 「藤代、具合悪いんだろ?顔色悪いぞ。どうして素直に言わない。そういうのは社会人として失格だ。倒れたら会社に迷惑がかかるんだ。俺には素直に言う事。いいな?」 頭をクシャッとされて、ドキンとした。 尊敬出来る先輩、指導担当、優しいからただそれだけ…何度も言い聞かせた。 朝、顔を見ると嬉しくなる。 自然に口角が上がり頬が染まる。 仕事なんだからと自分の頬を叩いた。 そんな日を何度も通り越して、いつの間にか由巳は恋に落ちていると自覚した。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1781人が本棚に入れています
本棚に追加