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「な!し、指導担当されていた時は指輪なんてしてませんでした!してたら気付いて……………。」 言いながら由巳の目は、テーブルの上で握られた須賀の手に注目していた。 右手を上にして左手を包み込むその手には、結婚指輪が嵌められていた。 由巳の目線を追い、部長が由巳に声を荒げた。 「結婚指輪をしているだろう?結婚して何年も経てば外す人もいるけどね、彼はまだ結婚して日が浅い。お子さんもまだ1歳になってない。そんな男が女性を誘うとは思わない。男はね、自分より若い子に甘えられたらフラッとするものです。今回は君の自己責任、自業自得ですよ。」 「な、んで?だって、指輪してなかった!どうして?」 「同じ課にいて、君の同期も職場の人間はみんな彼が結婚していると知っていて、どうして君だけが知らないんだ?おかしいだろ。課の飲み会、同期の飲み会、酒の席に行けばいくらでもそんな噂は耳に入る。」 (課の飲み会は殆ど参加してない……参加の時は、健斗がずっと横にいた。いつも……いた。同期の飲み会は……。) 「同期の飲み会は出てません。一度も!私はまだお酒は飲めませんし、彼が、健斗が嫌がったから。他の男と話すなって、だから!」 「水掛け論です。藤代さん、キリがありません。これから上に報告して処分を決めますが、既婚者と知りながらお付き合いをした君には厳しい処分が出ると思います。」 「……須賀さん、は?」 頭が痛んで働かない。 「奥様とのお話で、須賀君とは離婚しない。会社への迷惑も謝罪して頂きました。幸い休みに入っていて出勤している社員は僅かでした。午後でしたし。奥様が離婚をされないというのならば、誘ったのは藤代さんの方で悪質と判断して、須賀君は被害者という事で、異動、もしくは出向の形になると思います。」 須賀の方を見るが、下を向いたまま一度も由巳を見る事はなかった。 上司と須賀と奥様の話し合い。 多分、須賀は自分の都合の良い様に話して、奥様にも謝罪をして離婚をする気はないと、誘われてと…そう話したのだと理解した。 全部が嘘で、自分はただの遊びだとここで由巳は気付いた。 ポロポロと涙が流れた。 泣いてはいけないと思いながら止められない。 「……私は、嘘は言っていません。須賀さんは指輪をしていなかった。既婚者だとは知らなかった。知ったのは年末でした。何度も別れようと言いました。須賀さんは……奥様とは別れるから待ってくれと、子供が父親を認識出来るようになるまで待ってくれと言いました!奥様へは申し訳ないと思っています。ですが、重さが違う処分には納得が出来ません。不倫をしたのは彼も私も同罪のはずです。会社が夫婦の事に口を出さないと言われるなら、処分は公平にお願いします。」 涙を拭いて、強い目を部長に向けた。
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