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部長はため息を吐いてからゆっくりと話す。 「残念だけどね、藤代さん。一度男性を誘惑し不倫した女子社員は、また同じ事をしないとも言えない。君と須賀君の信用性を考えた時、須賀君は男で会社にも何年も貢献している。君は女性でまだ日も浅く、これから先の貢献も須賀君程見込めない。その点から言っても処分は君が重くなる。自ら退職願を出した方が転職には有利だと思います。」 「部長、そういう言い方は……。」 課長が口を出した瞬間、由巳は大きな声を出した。 課長まで道ずれには出来ない。 今回の事で多分、課長も何らかの責任は取らされるはずだと思ったからだ。 それに須賀に裏切られた、嘘を吐かれたという悲しみが大きく、落胆は怒りに変わっていた。 「結局何を言っても、正しい事を本当の事を話しても、会社は男性を守るんですね。女性なんか腰掛け、そう考えているのでしょうから、頭の硬いご都合主義の男の考える事ですよね。辞めます。こんな会社にいても先が知れてます。だって上がこんな人なんだから。」 顔を赤くして怒鳴る部長を無視して、須賀を見た。 「須賀さん、あなたも最低ですね。好きとか愛してるとかいくらでも言えるんですね。勉強になりました。こんな下衆を好きだったなんて自分が恥ずかしいです。奥様には慰謝料も払います。安心ですか?これで奥様の怒りが解けるといいですね。あなたみたいな人は、また同じ事を繰り返すに決まっていると弁護士の方から奥様に伝えて頂きますね。今ここで合鍵を返して下さい。」 合鍵と言われて須賀の体がビクッと動いた。 それは話していなかったのだと思う。 「あるでしょ!ポケットに!!さっさと出してよ。持っていられたら気持ち悪いのよ!」 普段の由巳から想像も出来ない大声に須賀は、オタオタしながらスーツの内ポケットからキーの束を出して、合鍵を取り外してテーブルの上に滑らせた。 それを受け取り、由巳は着けていたネックレスを引きちぎる。 「退職願は明日、改めて出しに参ります。持ち物も今日と明日で持ち帰ります。お騒がせして申し訳ありませんでした。これはお返しします。あなたの様な最低な卑怯者からのプレゼントを持っていたくないので。」 須賀に向けてネックレスを投げ付けた。 「いた、………由巳。」 初めて須賀が顔を上げた。 「馴れ馴れしく名前を呼ばないで!須賀さんの口から聞きたくない。取引先に挨拶して回ります。私が誘惑したらしいです。男の方が貢献がいいって、首になりましたと挨拶して回ります。礼儀ですから。失礼します。」 「おい!待て!藤代!!」 部長の声を背に、泣きながら会議室を出た。 悔しくて仕方なかった。 悪いのは騙された自分だとしても…信じていたのだ。 守ろうとしたのだ、由巳は最後まで。
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