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その足で帰ると、泣きながら渡された名刺に電話を掛けた。 出来る事なら相手の弁護士であるこの人が、少しは理解ある人だといいという願いを持って…。 (……無理だよね。代理人、奥様の味方だもの。不倫する人間は最低だと、思われているに決まってる。) 翌日、午前中に会う事になり、大倉という相手の事務所を訪ねる約束をした。 大倉の事務所は会社から一駅先だったので、帰りに残りの荷物を取り行き、退職願を出して来ようと考えた。 会社に行くのは気が重かった。 その夜は不安でいっぱいで眠れずにいた。 これからどうなるのか、慰謝料はどのくらいなのか、会社を辞めて仕事は見つかるのか、一人で生きていけるだろうか。 由巳には弁護士を雇うお金などなく、悪いのは自分だから須賀には何も出来ないと思った。 泣き寝入りするしかない。 須賀がこう言った、なんて主張しても証拠は何処にもない。 由巳が聞いただけの事だ。 いつも二人で会って、ひっそりと話をした。 須賀が愛してるとか離婚するとか話したのも、由巳にだけだった。 友達にも話していないし、父親に話せる訳もない。 実家に帰りたいと言えば迎えてはくれる。 頼めば父は弁護士も雇ってくれるだろうが、それには不倫の事を話す必要がある。あの母親に…不倫して実母を追い出した母に知られる事が由巳は嫌だった。 (それなら死んだ方がマシだ。) あの母と同じ事をしたのに、絶対に嫌な事をしてまで一緒にいたのに、簡単に棄てられたのだと涙を流した。
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