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弁護士事務所は隣の駅前のビルの3階に入っていた。 ーー大倉弁護士事務所ーー そのドアの前で立ち止まり、大きく深呼吸をした。 中にいるのは由巳の味方ではなく、奥様の味方。 敵中に一人で入っていくのだ。 ドアを開けようと手を掛けると中から開いた。 「いらっしゃいませ、どうぞ?」 落ち着いた30代くらいの女性がドアを開けてくれた。 「お約束ですよね?藤代さん、でいいですか?」 名前を言われて戸惑いながら返事をする。 「はい…藤代です。少し早いのですが…。」 部屋に入って言うと、笑顔を向けられて背中に腕に手を添えられた。 「お怪我をされているとお聞きしていましたので分かりました。大丈夫ですか?少しお待ち頂きますが座ってお待ち下さい。」 入った右側にあるソファに座らせてくれた。 「すみません。ありがとうございます。」 座ってから頭を下げると、微笑まれる。 「いいえ、リラックスして下さいね。今、お茶をお持ちします。」 優しい笑顔に態度、体を気遣ってくれる事に思わず言葉を投げ掛けた。 「あの!私、依頼をしに来た訳では……。」 誤解をされていて態度が変わったら、今の由巳にはきつい。 僅かな優しさでも手のひらを返されたくはなかった。 「はい、分かっていますよ。私はここの事務員で中立のつもりです。藤代さんを憎む理由も傷付ける理由もありません。初対面の方が怪我をされていたら手を貸すのは普通ではないですか?では、お茶をお持ちしますね。」 ペコッと頭を小さく下げて、彼女は奥へと消えた。 手のひらを返される事はないと思うと、涙が溢れて来ていた。 事務所の中に3人を目で確認出来て、どちらが弁護士先生だろうかと由巳はお茶を頂きながら、視線を泳がせていた。 (通帳は持って来た。これで何とか出来る金額だといいけど…。) 祖父の葬式、母の葬式、生前の二人の所へ通う交通費、二人には再会してから出来るだけの事をとお給料からかなりを出費していた。 節約して貯めた全財産を持って来ていた。 50代位の細身の男性が目の前に座り、テーブルの上に名刺を出した。 「初めまして。お電話ありがとうございました。須賀由紀さんの代理人を務めます。大倉(おおくら)拓郎(たくろう)と言います。」 名刺を素直に受け取り、頭を下げた。 「藤代(ふじしろ)由巳(ゆみ)です。よろしくお願いします。」 恐る恐る目線を合わせる。 目の前の人は怖い雰囲気ではなく、とても優しい目で由巳を見ていた。
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