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「早速お話しますが、お怪我は大丈夫ですか?昨日、須賀さん……奥様の由紀さんからお電話を頂いて、怪我をさせてしまったとそこについては謝っておいででした。病院へは行かれましたか?」 奥様からの電話と聞いて胸がズキンと痛んだ。 「いえ、まだ。ここが…早い方が良いと思いましたので…。」 「そうですか、では明日、行かれて下さい。治療費は領収書をこの事務所宛に送って下されば、お支払いすると依頼人は言われております。」 「結構です。自業自得ですから…。慰謝料のお話をお願いします。お恥ずかしいですが、家を出て一人暮らしをしていて、入社一年で首になりましたから余りお金はありません。奥様の希望金額によっては分割をお願いしたいと考えています。」 一夜漬けの六法全書の知識で本物の弁護士と戦えるとは思わないが、全く知識のない小娘と思われない様に、民事裁判、不倫訴訟、不貞行為、慰謝料、そんな項目を読み漁って来ていた。 覚えるなんて無理だし、とりあえずのメッキで良かった。 自分をしっかりとした女性に見せられればそれで良いと思っていた。 「分かりました。ではこちらが仮になりますが、依頼人からの要求になります。二度と須賀健斗には会わない事、不貞行為を奥様に謝罪する事、慰謝料を支払う事、須賀由紀からの要求は以上になります。」 書面を見せられて、慰謝料に驚いた。 「100万、そんなにですか?」 「仮です。この日付けの時点での要求額になります。ですが、今回のお話を聞いて、依頼人が会社に乗り込んだ事もお聞きしました。そういう事はされない様に申し伝えておりましたが…遅い時間になりましたが、須賀健斗さんの課の課長さんとお会いし、話をして来ました。解雇された事も聞きました。お話し合いの内容も大体ですが把握致しました。」 (……だから、この金額は妥当だというのかな?足りないって。) 不安は増し、震える身体を止めようとした。 「大丈夫ですか?本来なら私は依頼人の立場で考え、依頼人の有利に動くべきですが、課長さんのお話を聞いて余りにも酷いと思いました。離婚案件は何度も扱っています。不倫もお互いに割り切って楽しんで、そういう者は多額の慰謝料を払うべきと考えます。一人家で待つ奥様の気持ちを察すれば当然と思います。」 「……はい。」 そう言われればその通りで、反論する言葉も出なかった。
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