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「18歳で会社に入り、未来ある女性の将来を摘み取った責任も須賀健斗にはあると思います。彼は…あなたを切り捨てた。そうですよね?」 大倉の言葉に堪えていた涙が一気に溢れた。 頷き、涙を堪えようとしたが無理だった。 「し、信じて、もらえないと……思うけど……知らなかった。最初は独身だと……おも、思ってて…年末に奥様とお子様を…見て、私は別れる事を考えたけど、彼は…別れたくない、五年…待ってくれって。離婚するからって。奥様の顔を思い出すと辛くて、嫌で…だから別れようって言ったけど、何回も言ったけど……私も好きだったから、だから……でも彼は…健斗は全部を私の所為にして、許せないけど…誰も、どうせ誰も信じてくれない!」 わぁぁぁぁぁ! テーブルに上半身を倒して子供の様に泣き崩れた。 切り捨てた、と言われて我慢して張り詰めていた糸がプツンと切れた。 「大丈夫よ。泣くだけ泣いたら落ち着きましょうね。」 さっきの女性が隣に座り、背中を摩ってくれていた。 お母さんが生きていたら相談出来たのだろうか、泣きながら暖かい手に母を思い出していた。 「課長さんは心配されていましたよ。余りにも差のある処分であなただけが解雇される事に不服を申し立てるつもりでいると話してくれました。」 それが耳に入ると由巳はグシャグシャの顔を大倉に向けた。 「だ、駄目です!そんな事、課長に…連絡が出来るなら()めて下さい。」 課長には由巳より二つ下の娘がいると聞いていた。 初めての飲み会の席で隣に座り、助けてくれたのは課長だった。 新入社員だから気に掛けて下さっていると思っていたが、他の同期よりも丁寧で優しい気遣いに由巳も気付いていた。 「そうですね、私個人も無駄だと思います。会社側は個人的な事と言いながら、噂になる様な芽を摘みたいという所でしょう。お伝えしておきます。それから慰謝料については依頼人に治療費を拒否されたとお伝えし、傷害で訴えない事を条件に慰謝料を減額するとお話しします。依頼人も傷害と言われてかなり動揺されていました。治療費を払うと言われたのもそれを気にしての事です。今の金額よりは少なくなります。80万以下はお約束します。それで宜しいでしょうか?」 「はい。いいんですか?大倉先生は…奥様の代理人、ですよね?」 消え入りそうな声で訊き返していた。
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