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高校2年の夏に母の実家を訪ねた。
まだ祖父が居るはずだったが、祖父は老人ホームに入っていると隣の家の人から聞かされた。
「あの、娘さんは、どうされているか知りませんか?」
僅かな希望を抱いて聞いたが、知らないと言われた。
幸い祖父の入った老人ホームは近かった為、そちらに顔を出す事にした。
とは言え、祖父とは幼稚園位に会ったきりで、由巳は顔も覚えてはいなかった。
老人ホームに着くと、スタッフの人が面会室に案内してくれて、確認したいと言われ、少し戸惑った。
確認と言われても小さい頃に会ったきりの祖父の事など何も知らない。
学生証を見せて、実は母親を探している事を話した。
三年程会っていなく、父親も居場所を知らないと言うだけで何も話してくれない。
両親が離婚したら母親と暮らせると思っていたから、父親に引き取られて驚いた事も話した。
学生証を返しながら、
「何にも聞いてないのね。」
と呟かれた。
「あなたのお祖父さんがここに入ったのはお母さんが長期入院される事が決まったからなの。お祖父さんはお元気だけど、あの家に長い間一人だと何かあると心配だからって。藤代さんもお嬢さんが安心して治療に専念出来るならってここへ入る事を決められたの。」
「入院した?母は何処が……。」
驚いて言葉に詰まった。
「病院はここ、少しここからは遠いから…。お祖父さんに会われますか?」
机の上で手帳を取り出して一枚破いて、病院の名前と場所を書いてくれた。
ここまで来て会わないで帰るのも、と考えて少しだけ会わせてもらった。
祖父は泣いて喜んでくれた。
母が実家に戻ってから、何度も何度も私の話を聞いていたらしい。
母に似ていると何度も言って、泣いて抱きしめて、笑った。
「こんなじじいに抱きしめられたら嫌だな。」
泣き笑いの顔が可愛らしくて、
「ううん、嬉しいよ、おじいちゃん。会いに来て良かった。追い返されたらどうしようかと思ってた。」
と答えると、またぎゅうと抱きしめられた。
「そんな事しないよ。可愛い孫なんだから…。」
由巳も泣いてしまっていた。
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