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温かい卵がゆが運ばれて来た。
ほんのりと白いご飯に黄色い卵が絡められた水分多めの卵がゆ。
味付けも薄い塩味が少し感じるだけで、後は卵とお米の味がじわっとした。
ゆっくりと喉を通過すると身体が温かくなった。
一昨日、奥様に叩かれてから、食事は美味しく感じないし喉も通らなかった。
水を飲み、無理してでも食べなければと、冷蔵庫にある何を口に入れたりした。数口で駄目だったけど、何を口に入れたか味もしないから記憶も曖昧だ。
「どう?食べれそうかい?」
休憩所だと言う和室に暖簾を分けておばさんが顔を出して、お茶を丸いちゃぶ台の上に置いてくれた。
「ありがとうございます。美味しいです。……こんなに美味しいお粥、初めて食べました。」
潤む目で滲むお粥を見つめて、泣かない様に堪えた。
「良かった。うちの人も喜ぶわ。ゆっくりね。」
おばさんはお客さんに呼ばれて店に慌ただしく戻って行った。
食事を終えて和室を出て、厨房にいるおじさんにお礼を言い、おばさんにも頭を下げてお金を払おうとしたら、メニューにないから金額を決めてないので要らないと言われた。
「えっ、でも……。」
「メニューにないもの出したなんて分かったら大変だから内緒。いいね?だからお金は受け取れないよ。また食べに来てくれたらいいから。うちはそれで儲かるから。」
バン!と背中を叩かれて言われた。
「…つっ!」
と思わず顔を歪める。
おばさんが心配して背中を摩った。
大丈夫です、と伝えようとして、レジの後ろの方にお運び、補助募集の文字を目にした。
「あの、ここアルバイト募集してますか?」
「うん?あぁ、あれ?半年以上前から貼ってるけど全然来ないのよ。時給安いしね、仕方ないけど。二人でやれない事もないけど、昼の時間と夕方から7時頃まで二人だとバタバタでね?休憩もおトイレに行く時間もないの。我慢するのよ?ちょっと休憩、1分座ってお茶を飲む位の時間は欲しいでしょ?2時間に1分も取れないんだから…。」
とおばさんはため息を吐いていた。
「あの、私では駄目でしょうか?」
思わず口を吐いていた。
翌日から11時から7時、間に休憩時間を挟んでアルバイトが決まった。
生活費に不安があった由巳には有り難い出会いだった。
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