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「私は…須賀さんの奥様には本当に悪い事をしたと思っています。慰謝料を払う事にも不服はありません。私は……私があの時、奥様に誤解だと言ったのは、奥様が怖かったからでも自分を守りたかったからでもありません。須賀さんが困ると思ったから…ただ、須賀健斗を守りたかった。」 その言葉で須賀は顔を上げた。 由巳の部屋にいた時の様な、愛おしい目で由巳を見つめた。 由巳はそれを冷えた目で見ていた。 「須賀さんは違いましたね。気を失う寸前、誤解だ、傷害だぞって聞こえました。あの時、奥様の手前だとしても私を庇ってくれていたら、離婚するつもりだ、愛しているという言葉もきっとまだ信じ続けていたと思う。言葉だけ…須賀さんはただ見ていただけ、その後もそうでしたよね?部長が指輪をしていると言った時、自分はしていなかったと言ってはくれなかった。」 哀しい声で由巳が話すと、須賀はまた下を向いた。 「奥様が許してくれたから、離婚しないと決めてくれたから、だから私を切り捨てた。私が偶然、ご家族でいる場面を見ていなかったらいつまで黙っているつもりでした?未成年でお酒が飲めないから、飲み会の席には殆ど参加しないと知っていて嘘を吐いていたんですよね。騙す事は簡単だと、バレるはずはないと離婚する気なんかない癖に離婚するからって…嘘をついて私を騙した。」 ボロボロと少しずつ涙が流れる。 それでも目はきつい眼差しで須賀を貫いていた。 「ちが…騙すつもりは、なかった。本当に好きだった。」 一瞬、顔を上げた須賀と目が合う。 だけど須賀はすぐに目を逸らした。 「由巳…藤代さんには悪いと思っています。離婚しないと妻が言い、やり直したいと泣きながら言われて反省もしたし、そうなると会社をクビになる訳には…。藤代さんはまだ若いしいくらでも他でやり直しが出来ると…。」 「私は苦労してあの会社に入ったんです!高卒で女子でどれだけ努力したか、あなたに分かりますか?この一年、懸命に努力してあなたは…須賀さんはそんな私の仕事振りを一番近くで見てたはずです。狡いです。あなたは…。」 須賀の言い分に大きな声で言い返した。 そんな事を言ってももう無駄だと分かっているが、裏切られた気持ちは今まで堪えてきた来た分、ぶつけるしか行き場がなかった。
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